「アジアの未来」
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討論
▼原油高時代に挑む


中東マネー、直接流入

 脇祐三・日本経済新聞社論説副委員長(モデレーター) 原油価格が1バレル130ドルを超えた。湾岸協力会議(GCC)6カ国の経常黒字は日本より大きくなった。

ナーセル・サイーディ氏
ナーセル・サイーディ氏
 ナーセル・サイーディ氏 GCCの経済は飛躍的に伸びており、インドなど労働力輸出国にも波及している。経常黒字は国内総生産(GDP)の26%に達し、過去5年間の累積黒字は1兆ドルを超える。

 石油中心の経済から変わりつつあり、過去5年は原油高でも非石油部門の伸びが石油部門を大幅に超えた。金融所得資産の運用益が石油収入より重要になり、うまく運用しなければならない。

 世界の政府系ファンドは2、3兆ドルの資金を持っている。GCCでは1兆ドル規模だ。従来はドル建て資産が大半だったが、多角化を図っている。ドル建て資産のリターンが低いからだ。当面は投資の20―30%を直接アジアに振り向けようと考えているようだ。エネルギーと資源が豊富なGCCと、両方とも不足するアジアは補完関係にある。アジア企業がGCCの市場にも株式を上場することも可能だろう。

イクマル・ヒジャズ・ハシム氏
イクマル・ヒジャズ・ハシム氏
 イクマル・ヒジャズ・ハシム氏 マレーシア南部のイスカンダル開発地域は東南アジアの中央に位置している。中国やインドにも近い。人口は現在140万人だが、2025年までに300万人まで増やしたい。25年の目標はGDPで933億ドル相当だ。医療サービスや教育、金融などを柱にして開発を進めていきたい。

 この地域を世界中から資金を集められる投資先にしたいというのが政府の考えだ。金融・リゾート、港湾、空港・物流地域などに分かれており、リゾート開発にはドバイの企業が参画し、別の娯楽や医療関連にはアブダビの資金が既に入っており、最終的には200億ドル程度に上る予定だ。港湾などにも中東からの資金が流れ込んでいる。海外の人材や資金を柔軟に活用できるようにし、サービス分野では優遇税制も設けている。

重久 吉弘氏
重久 吉弘氏
 重久吉弘氏 04年から始まった原油価格の高騰は予測より早かった。今後も1バレル100ドル超の価格が続けば、GCC6カ国の投資可能な資金は4兆ドルに達するとの見方もある。32億人の人口を抱えるアジアがこの資金を引き込み、日本の技術も組み込むことができれば、近い将来は世界一の経済圏となる。

 中国とインドを中心にアジアが経済発展を続けると、エネルギー需要が大幅に増加するという問題が生じる。一方で中東産油国では石油需要の伸び率が中国やインド以上に高いとみられる。人口が減少に転じた日本は工業国から技術立国へと転換し、省エネに貢献することが重要になる。

 脇氏 インフラや人材教育など同じ問題を抱えているアジアと中東諸国の間ではどのような協力ができるか。

 サイーディ氏 GCC諸国は太陽光発電の分野で重要な役割を果たせる。日本の技術とGCCの資金を活用すれば、アジアへの送電網を築ける。港湾なども含めて、この組み合わせでアジアやアフリカなどの新興国に投資することが重要になる。

 イクマル氏 中東からの投資誘致は東南アジアの開発にとって重要だ。イスカンダル地域はコスト競争力が高く、人口もまだまだ増えるだろう。マレーシアは現在でも中東へ投資しているが、今後はこうした相互関係の拡大が必要だ。

 重久氏 GCCは太陽光発電に熱意を持っているが、世界のエネルギー需要を考えると原子力の平和利用の方が可能性が高いと思う。

 脇氏 アジアへの中東の関心が高まってきている。日本は関係強化の先導役になれるか。

 サイーディ氏 当然なれる。貿易投資協定など共同事業を奨励・促進する仕組みをつくらなければならない。今後は日本とGCCの合弁事業が資本市場からスムーズに資金調達できるようになることが大切だ。

 イクマル氏 マレーシアやシンガポールはイスラム金融や中東の資金に注目している。こうした資金を確実に域内に呼び込むことが重要になってくるだろう。

 重久氏 最近ベトナムで石油精製プロジェクトが相次いでおり、日本企業が資本と技術を投下し、GCCが資本と石油を提供するという形の投資が今後、増えるのではないか。アジアとGCCが一緒になり、日本企業が資本と技術を提供する枠組みの種づくりをしていきたい。

[5月23日/日本経済新聞]

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