新聞は限られた時間で大量に印刷し、遅れることなく読者の皆様にお届けすることができるように高スピードの印刷機が使われています。新聞用紙は印刷中に切れたりしない強さと、省資源や新聞配達員の負担を減らすための軽さが求められています。薄くて破れない性質は新聞用紙に欠かせない重要な条件のひとつです。日本経済新聞社は、製紙メーカーの抄造技術の発達もあり、これらの課題に応えながら、古紙の配合率を増やしてきました。古紙パルプ配合率は製紙メーカーによって異なりますが、70%以上となっています。また、環境保全意識の高まりから、古紙パルプは、その製造プロセスに占めるCO2排出にも注目が集まっています。日本経済新聞社は、環境負荷の低減と古紙を無駄なく利用する努力を続けています。

日本経済新聞社の新聞用紙の軽量化の歴史は、77年に長年続いた52g/㎡の重量紙(H紙)から49g/㎡の普通紙(S紙)に移行し、その後80年に46g/㎡の軽量紙(L紙)へと発展しました。その後、朝刊に載せる情報を増やす目的で36ページから40ページへページ数を増やすために、さらに軽い43g/㎡の超軽量紙(SL紙)の開発に取り組みました。印刷工場から販売店へ新聞を運ぶトラックの燃費の悪化を防ぎ、環境にもやさしい新聞用紙を目指しました。製紙会社8社の協力のもとテストを繰り返し、関係者の努力の結果、89年5月に新聞他社に先駆けたSL紙の使用を全国一斉に開始しました。朝刊40ページ印刷実現のために開発・導入されたSL紙は、その後新聞他社にも広く採用され、現在も新聞各紙の主要用紙として使われています。46gから43gへ軽量化することによって紙厚は4%薄くなり、重量は7%軽くなり、資源の節約に繋がりました。

さらに、朝刊40ページから48ページへと増ページする構想を掲げました。そのため、次なる用紙の軽量化が必要と判断、社を横断した社内開発チームを発足させ、40g/㎡(XL紙)の開発が始まりました。開発チームは主要製紙会社5社に開発を依頼し、テストの日程・内容は日経主導で進めました。これまで通り、きれいな紙面が印刷できる紙であること、さらに古紙混入率は現状を維持することなどを前提としました。旧大阪本社で試作用紙の印刷テストを開始し、様々なテスト項目を検証しました。度重なる修正改良を加えた用紙はその後にすべての工場でテストを実施し、製紙メーカーと共同開発したXL紙は、00年10月に「新聞巻取紙団体規格」に追加公認されるに至りました。現在では日々使用されている「XL紙」の開発実用化は、難しい工事であった朝刊48ページ印刷ができる設備増強と合わせて01年度に新聞協会賞技術部門を受賞しています。

48ページの新聞1部の重さは、計算上、SL紙で229.1g、XL紙で213.1gとなり、約7%の軽量化となります。日経は01年1月から首都圏・近畿圏で48ページの新聞が発行できるように、工場の設備を増強しました。これまで40ページであった朝刊は、48ページになると、単純に計算して40ページの時よりも20%重くなります。それは新聞販売店の従業員の配達でも相当な負担となります。XL紙はそうした負担を最小限に抑えることも目的のひとつでした。また、省資源、省エネルギーへの対応が切実な課題となっているなか、XLの実用化は原料である木材パルプの消費を減らし、世界の森林保護にもつながります。XLは、新聞を配達する「人に優しい」だけではなく、「地球にも優しい紙」なのです。古紙の配合率もこれまでと変わらないため、資源のリサイクルという点からみても優等生です。


40g/㎡(XL紙)の巻取紙(左)と新聞印刷の様子(右)
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環境対応型インキの採用

新聞印刷用インキは、人体へ有害でもある揮発性有機化合物による大気汚染の軽減と、石油の枯渇問題に対応した石油系溶剤を抑制したインキを使用しています。日本経済新聞社が使用するインキは、すべての工場で環境にやさしい財団法人日本環境協会エコマーク事務局が認定する「エコマーク」認定基準のインキです。

新聞印刷用インキは、ザラ紙に高速で印刷できる適性が求められます。13年にカラー印刷で使用するカラー3色(藍、紅、黄)インキで、高濃度タイプのインキが実用化されつつありました。このインキは文字通りインキ濃度が高く、少ないインキ量でも紙面の濃さを保てることが特徴です。13年、川崎工場で高濃度インキのテストを開始し、順次、すべての工場でテストを始め、その後約1年間を掛けて実用化しました。17年には新聞印刷でもっとも使用量の多い墨インキも高濃度タイプを実用化しています。

高濃度インキは、色を出すための色材を増量することで、色の濃度を高めています。それにより、従来のインキよりも少ないインキ量で明瞭な濃度感を再現することができます。インキ使用量の削減効果は、おおよそ10~20%になります。 新聞用紙の厚さはとても薄いため、インキ量が多いとインキが用紙の裏側にまで滲んでしまうことがありますが、高濃度インキは、そのような滲みの軽減にも効果があります。



低環境負荷の資材を開発

新聞印刷は、オフィスにある複合機や家庭用のレーザープリンターなどとは異なり、印刷したい原稿を専用の装置を使って版に描きます。その版にインキをのせ、紙に圧着させることで印刷します。新聞用紙、インキに続く新聞印刷の3大資材である版でも技術革新が進んでいます。96年、日本新聞協会技術部門賞を受賞したOPC版(有機光導電体:Organic Photo Conductor)を実用化しました。当時は版に原稿を描くにはフィルムが必要不可欠でしたが、フィルムがいらない版を開発したことで大幅な省資源化を達成しています。

版の原材料はアルミニウムです。使用した版は業者を通して高純度のアルミの塊にして、原材料としてリサイクルされています。


OPC版用製版機の開発風景(左)と工場に導入した製版機(右)
OPC版用製版機の開発風景(左)と工場に導入した製版機(右)

03年5月、八潮工場で版材と装置メーカーと日経の3社で新版材の共同開発を開始しました。現在主流になっているサーマルCTP版(Computer To Plate)の改良です。この版は表面の傷防止で"合い紙"という包材が必要ですが、改良を続けることで"合い紙"レスを実現し、廃材を減らすことが可能になりました。八潮工場で1年半、試行錯誤と検証を繰り返した結果、世界でもまれなCTP刷版が完成しました。

14年7月には、低環境負荷型のサーマルCTP版の実用化の功績が認められ、日本新聞協会技術委員会賞を受賞しています。版をつくるためにアルカリ現像液が必要ありません。海外の資材メーカーとの共同開発の期間は1年間にも及びましたが、最終的には大幅な環境負荷の低減を達成しました。

専用の製版機(左)と低環境負荷型のサーマルCTP版(右)
専用の製版機(左)と低環境負荷型のサーマルCTP版(右)


環境マネジメントへの意識向上

地球温暖化など環境意識の高まりにより、企業の社会的責任として環境対策の強化が求められてきました。日経の各工場でも国際的な環境基準であるISO14001(環境ISO)の取得に取り組みました。05年7月の名古屋工場を皮切りに、各工場でISOの取得を進め、09年8月の茨城工場の取得により、全工場の取得が完了しました。環境ISOの第三者認証機関の認証を受けることは企業として社会的責任を果たしている証明です。社員の環境に対する意識向上にも役立てています。

新型コロナウイルス感染症対策として新しい働き方のスタイルが求められているなか、経営環境を巡る情勢は大きく変化しています。20年12月に日経首都圏印刷は、環境ISOから環境省が規格制定したエコアクション21へ移行し、新しい効率的な環境マネジメントシステム沿って取り組んでいます。

日本経済新聞社は、環境への対応は重点テーマであると捉えています。これかもさまざまな角度から地球にやさしい新聞づくりを推進していきます。