日経MJ(流通新聞)は2021年5月、創刊50周年を迎えました。本社として初の日本経済新聞本紙以外の新聞発行で、流通・消費関連分野を中心に読者・広告主を獲得してきました。MJは日経の専門紙戦略の先駆けで、そのノウハウ・経験は日経産業新聞、日経金融新聞、日経ヴェリタスの発刊へとつながりました。日経は本紙・英文媒体にとどまらず複数の専門紙を発行する世界でもユニークな新聞社になりました。


わが国初の本格的な専門紙

日経MJの創刊は1971年5月、当初は日経流通新聞の名称でした。「わが国初の本格的な専門紙」をうたい文句に毎週水曜日の週1回の発行でスタート。当時は日本経済の高度成長により消費者が豊かさを実感できるようになった時代で、ダイエーに代表されるスーパーマーケットが伸びてきました。低価格を武器とする新興小売り勢力は、チェーン化により販売力をつけて、小売店、問屋、メーカーに新しい対応を迫りました。


日経流通新聞創刊号
日経流通新聞創刊号


「平凡パンチ」のような新聞を作ろう

紙面編集のコンセプトは「面白くて役に立つ」新しい新聞です。当時、若者に人気の雑誌「平凡パンチ」のような新聞を作ろう、という声が社内にはあったそうです。根底には「ミニ日経を作っても意味がない」との考えがありました。74年11月からは毎月・木曜日の週2回発行。月曜日は「こってりとした企画もの」(74年10月の社内報)、木曜日は「時の話題をさらりと切る方式」(同)にしました。

各種の独自調査も紙面の特徴です。「日本の小売業調査」(当時は「日本の小売業百社」)に加え、「卸売業調査」(72年)、「専門店調査」(73年)、「飲食業調査」(75年)と幅を広げ、流通業界の実像をデータで浮き彫りにしてきました。「ヒット商品番付」(71年)も流通新聞の知名度向上に大きく寄与し、いまやMJのキラーコンテンツになっています。

ビジュアル紙面の先導役

1980年代にはいち早く大字化(1行15字→14字)やカラー写真化に取り組みました。より見やすい紙面づくりに取り組み、日本経済新聞本紙にもそのノウハウを転用するなど、流通新聞はビジュアル紙面の先導役も果たしてきました。04年には発行日を毎週月・水・金曜日とし、14年には題字を日経MJに変更。2021年6月には創刊50周年に合わせて紙面を刷新しました。

流通新聞の経験は広告や販売、新聞印刷などでも積まれ、本社の専門紙路線の継続・拡大へとつながります。73年10月創刊の日経第三の新聞、日経産業新聞は個別企業のニュースなどミクロ経済情報を提供する専門紙で日曜休刊の日刊紙でした。一つの新聞社が日刊紙2紙を出すのは極めて珍しいことだ、などと当時の社内報では強調しています。ところがそれから14年後、3つ目の日刊紙を発行するに至ります。87年10月の日経金融新聞(月~土曜発行)です。日刊紙3紙・専門紙3紙を有す世界でも特徴ある新聞社となったのです(金融新聞は08年1月休刊)。


左から、日経ヴェリタス、日経産業新聞、日経金融新聞の創刊号
左から、日経ヴェリタス、日経産業新聞、日経金融新聞の創刊号


技術をいち早く取り込む

日経が本紙プラス複数専門紙の発行という体制をとることができたのは、輪転機の有効活用に着目し、いち早くコンピューターによる新聞制作に取り組み(72年)、効率化に着手していたことがあるのも見逃せません。

1970年代の高度成長期に経営戦略として打ち出した「経済に関する総合情報機関」を目指す取り組みの一つに専門紙戦略がありました。この戦略が「ミクロに強い日経」に貢献してきたことは間違いありません。

時が変わって近年、インターネットの普及に併せて各専門紙は紙面ビューワーサービスの提供をはじめデジタル発信の強化にそれぞれ力を入れています。08年3月に創刊した週刊金融投資情報紙、日経ヴェリタスは当初からネット連動媒体として売り出しています。


日経MJ50周年記念号
日経MJ50周年記念号