「アジアの未来」
HOME

フロントページ
速報
5日の概要
会議日程
講師紹介
アジアの未来
2002
2001
2000
1999
1998
1997
日経アジア賞
English
5日の概要
一体化への思い、日本と溝

 今回の「アジアの未来」では地域統合を求める声が過去の会議とは比べものにならないほどに高まった。実体経済の急速な一体化に加え、SARSや北朝鮮の核開発など、一致して解決すべき問題に直面したからだ。

 「日中韓がASEAN自由貿易地域に参加すれば域内の貿易と投資を加速しアジアに成長と発展を約束する」(プラパット・タイ工業連盟会長)。「域内でのモノ、サービス、ヒト、カネ、情報の移動の自由を実現すべきだ」(晩さん会で奥田碩・日本経団連会長)。

 各国のビジネスマンが早急な経済統合を主張するのは当然だ。米国向け輸出をテコに発展してきたアジアは、台頭する中国をも背景に域内貿易と投資を成長の主エンジンとし始めた。

 統合への叫びは金融分野にも広がった。「我々は経済危機防止のための通貨スワップ協定を結んだ。次の具体的な目標は共通通貨だ」(アロヨ比大統領)、「地域の金融的安定を目指し『アジア債基金』を作ろう」(タクシン・タイ首相)。

 マレーシアのマハティール首相を除きアジアのリーダーは明確には語らないものの、誰もが1997年の経済危機の要因の1つ、米欧資本による通貨攻撃の恐ろしさを覚えている。危機から6年過ぎその傷跡が癒えた今、各国は再発防止の仕組み作りに動き始めた。イラク戦争で「米一極構造」が改めて明らかとなったこともアジア人の世界観に微妙な影を落としているのは間違いない。

 欧米のメディアなどはアジアの統合構想を「夢」として冷笑しがちだ。だが、99年にマニラで日中韓とASEANの首脳が初めて一堂に会した“汎アジア会談”が開かれて以来、「夢」は少しずつだが「具体的な構想」へと向かっている。

 起爆剤となったのが昨年の中国とASEANのFTA締結合意だ。これに押され、FTAに消極的だった日本もASEANとの、さらには中国とのFTAを遅ればせながら検討し始めた。

 ただアジアとの経済連携を進める上では日本側に課題が多い。FTAの足かせとなっている農産物市場の開放問題に関連し、プラパット会長は「FTAは地域全体の発展にとどまらず、各国の構造改革をも推進する役割も果たす」と述べ、日本の背中を押した。アメリオ・デル上級副社長は「日本へ入国しようにもビザ発給が煩雑だ。モノの移動も通関に時間がかかる」と、日本の閉鎖性を指摘した。

 アジア人に「アジアは1つ」であることを実感させたのは経済危機だった。タイで始まった危機はインドネシアから韓国まで、極めて短時間のうちに“伝染”したからだ。韓国紙はこの時、創刊以来初めてタイのニュースを一面トップで報じた。これまた皮肉なことに今年、中国からアジアに一気に広がったSARSも「アジアは一つ」の思いを加速させた。

 そんな空気を察知したのか、小泉首相は5日の晩さん会でASEANとの包括連携を強調した。ただし、日本にはアジアとの一体感が育っていない。アジアと日本の新たな意識ギャップ。アジア人もそろそろこの点に気づき始めている。(編集委員 鈴置高史)

[6月6日/日本経済新聞]

一覧へ戻る >>

Copyright 2003 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.