「アジアの未来」
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アジアの未来
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日経アジア賞
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8日の概要
会議総括
鈴置高史 日本経済新聞社編集局アジア部
中国の台頭 議論席けん・競争原理へ傾斜促す

 今回の「アジアの未来」の底流を貫いたテーマは「台頭する中国」だった。

 「モノ作りの能力において中国と日本に差はない」(西垣浩司NEC社長)

 「日本の中国からの輸入は、東南アジア諸国連合(ASEAN)からの輸入と同水準に達した」(上島重二三井物産会長)

 「中国からの輸入急増や中国への生産シフトは、日本の産業構造そのものに影響を与え始めた」(森下洋一松下電器産業会長)

 日本の産業界を代表して出席した3人すべてが、期せずして中国産業の威力に言及した。1990年代末から中国の製造現場だけで語られていた事実が、一気に“日本の共通認識”となった。

 東南アジアにとっては中国は投資誘致のライバルだ。タイのタノン・ビダヤ首相経済顧問は「中国は外国の直接投資を吸収し急成長した。半面、それは投資が必要なほかの地域の成長の障害となってきた」と率直に語った。

 中国への2000年の海外直接投資(認可ベース)は前年比52%増。一方、ASEAN主要5カ国は約30%増にとどまった。今、巨大な市場を目当てに外資の中国ラッシュが加速している。

 もっとも“中国脅威論”を声高に語る経済人は見当たらず、むしろ自らの改革への起爆剤に活用すべきだとの意見が目立った。一つの理由は、パネリストとして参加した閔維方董事長の北大方正集団を含む多くの中国企業が、血のにじむ努力を通じ競争にうち勝ってきたことが、この場で共感され、アジアでも認識され始めたからだろう。

 「日本人は日本が優れていると思い込んでいる。技術を川上にシフトするしかない。目覚めよ。世界の中の日本を客観的に見るべきだ」(西垣NEC社長)。「構造改革を迅速に進めよう。シンガポールや韓国との自由貿易協定(FTA)など自由化の先頭を切ろう」(森下会長)

 さらに「外国人労働者の受け入れも前向きに検討すべきだ」(上島会長)といった日本の産業人の思い切った“決意表明”が相次いだ。これに対し、各国首脳を含めほとんどの海外の参加者が小泉内閣による改革への期待を述べた。

 タノン・ビダヤ首相顧問が「地域に自由な共通市場を作り、各国の優位性――安価な労働力やハイテク工場――を上手に組み合わせて成長すべきだ」と強調したのも、それらを併せ持つ中国と、なかなか進まないASEANの市場統合という現実からだ。

 「競争による切磋琢磨(せっさたくま)が重要だ」――。多くのパネリストがキーワードに「競争」を使った。ほんの数年前までアジアのキャッチフレーズは「共生」や「協調」だった。激しい企業間競争をテコに成長し続けるという中国像の浮上で、アジアのムードは変わり始めた。

 経済面での「中国との健全な競争」が語られると同時に、安全保障面での“競争”にも焦点が当たった。

 ドミンゴ・シアゾン前比外相は「経済成長で中国政府は外交的な自信を深め始めた。中国が冒険主義に乗り出せば地域全体が不安定化する」と危機感を表明。さらに「国際ルールにのっとって行動する協力的な中国こそが地域に大きく寄与する」と期待した。

 山崎拓自民党幹事長は「個人的には集団的自衛権の見直しを含め、憲法を改正すべきだと考えている」と述べた。シンガポールのリム・フンキャン保健相は「日本の集団的自衛権に関する議論は重要だ。中国の巨大化で安全保障面の米中日のバランスを再調整する必要がある」と発言した。

 台頭する中国がどんな国となり、アジアとどんな関係を作っていくのか――。これこそが今後の「アジアの未来」の最大テーマであり続けることは間違いない。

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