本日は、このセッションに、日本の産業界の立場から参加させていただきます。
アジア経済は、今年に入り米国経済およびIT産業減速の影響から、厳しい状況に置かれていますが、おそらく年内はこうした状況が続くものと思われます。
そうしたなかで最大の焦点となるのは、成長を続ける中国であります。
このセッションにおいても、中国を語らずしてアジアの未来は語れないとの認識から、「中国が日本やアセアンなどに及ぼす影響」、そして「アジア全体の繁栄と中国」といった点に関する所見を、まず述べさせていただきたく存じます。
中国台頭の影響
はじめに中国の成長でありますが、たとえば、電機業界を例に見てまいりますと、身近な家電製品のなかでも、テレビ、エアコン、冷蔵庫などは、いずれも中国が世界一の生産および消費国であります。また、電子レンジ、携帯電話、ビデオ、CDプレーヤなども中国が世界有数の生産量を誇ると同時に、急激に輸出競争力をつけつつある品目であります。
こうした成長は、さらに続くものと思われます。アジア全体に占める中国のウェイトはいよいよ大きくなります。その結果、世界におけるアジアのプレゼンスは、いっそう重要性を増すでしょう。
しかし、このような中国の台頭は、日本にとっても、アセアンにとっても、あるいは韓国にとっても、脅威と見なされる傾向が強いのが、現実であります。
−日本の場合でしたら、中国への生産シフトや、中国からの輸入急増による国内生産への打撃が、多くの産業の構造そのものに、影響を与えつつあります。
また、アセアン諸国にとっては、海外からの投資の減少、輸出市場での中国製品との競争激化、既存生産拠点の中国へのシフトなどが、懸念されます。
韓国にとっても中国製品との国内外での競合は避けられません。
このような中国の台頭が及ぼす影響を克服することが、アジア経済の成長と安定のポイントになるのは、衆目の一致するところでありましょう。
−エレクトロニクスのように、地域毎の棲み分けで臨むべき産業もあるでしょうし、別の方法論が求められる産業もあると思います。
それぞれの産業の特性に合致した手法で、課題を克服していくことが、肝要ではないでしょうか。
アジア全体の繁栄へ−中国脅威論を超えて
さて、これまで申し上げてまいりましたことは、言うなれば中国脅威論であります。
しかし、これだけが突出してはなりません。
12億もの民が暮らすマーケットが本格的に開かれるという、世界の経済史をひも解いても類を見ない中国の発展は、たしかに一時的には、さまざまな衝撃、影響を及ぼすでしょう。
しかし、長期的に見れば、アジア全体にとってプラスとなる。このように、前向きに捉え、アジア全体のバランスのとれた繁栄を目指すべきだと思います。
ただし、中国はもちろん、各国が世界経済のルールに則り前進することが、大前提となります。
中国には、関税引下げ、外資規制緩和など、WTO・世界貿易機関加盟を念頭においた市場開放や、知的財産権保護をはじめとする法制面の整備と着実な実行が、望まれます。
一方、ASEANは、AFTA・アセアン自由貿易地域の早期実現により、貿易投資自由化などの域内協力を加速し、競争力の向上に取組むことが不可欠です。
そして、なによりも大切なことは、まず日本が経済回復をはかり、安定成長、持続的発展の軌道に乗るということです。
そのためにも、国内市場の開放や規制緩和を通じた、経済構造の改革を迅速に進めなければなりません。
同時に、シンガポールや韓国との二国間自由貿易協定(FTA)締結など、自由化の先頭を切ることが重要です。
アジアにはすでに世界的な生産基盤が構築されつつあります。こうした国際的な分業・補完体制のネットワークが、競争と協力を通じてさらに高度に発展すれば、アジア全体の活力維持と競争力強化につながるに違いありません。
このような視点に立てば、
・AFTA・アセアン自由貿易地域
・ASEAN+3(日中韓)
・2国間FTAなど、
様々な域内協力を、重層的に推進・展開することが、きわめて重要になるのではないでしょうか。
多様性に富むアジアを、単一の枠組みやルールでしばるのではなく、開かれた「緩やかな連携」をベースにして、域内自由化を目指す、ということであります。
本日はこうした点についても話し合えれば、と思います。
以 上
|