「アジアの未来」
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アジアの未来
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日経アジア賞
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韓半島の未来
朴在圭(パク・ジェギュ) 前統一相(韓国)
 尊敬する日本経済新聞社鶴田卓彦社長様、並びに日本経済新聞社関係者の皆様。

 まずはじめに、私の講演のために貴重なお時間を賜わりまして、そのご配慮に衷心より感謝申上げます。

 また同時に、アジア各国の卓越した政治指導者の方々並びに著名な経済指導者の皆様とともに韓(朝鮮)半島の南北関係とその未来について対話する機会に恵まれたことに深い意義を感じております。

 私は1999年12月から今年3月末まで韓国政府の統一部長官を勤め、分断55年ぶりにして初めて開催された、2000年6月の南北首脳会談を準備し、成功させるという幸運を享受することができました。

 南北首脳会談準備委員会の委員長として北韓(北朝鮮)側との事前調整を統括指揮するなかで、首脳会談における大小様々な論点などをひとつひとつ見極める時間を持つことができました。また、任期中は韓国の対外的安全保障の最終的な責任を持つ機関である国家安全保障会議(NSC)常任委員会の議長として北韓問題を処理する役割も担当したことがあります。今から申上げることは、基本的にこのような経験が重要なベースになっている点を事前に申上げておきたいと思います。

 2000年の南北首脳会談は、韓半島の在り方を本質的に変貌させており、現実にその変化の振幅の大きさは想像し難いほど甚大なものとなっております。

 特に、北韓の金正日国防委員長のソウル答訪による第2次南北首脳会談など、今後の南北関係の実質的な発展に向けた民族史的情勢(MOMENTUM)が形成されることが期待されております。

 昨年、様々な要因が複合的に作用するなかで、南北関係が目覚しく進展しましたが、何よりも韓・米・日の緊密な協力体制が大きな役割を果したことに加え、アジア各国の指導者の方々の積極的な支援が必要不可欠な要因であったと考えております。

 さらに、より視野を広げてみますと、北東アジア地域の安定を維持する為には韓半島問題の平和的解決が必ずその基礎となるべきである点を申上げたいと思います。

 従って、韓国と日本及びアジア各国の発展的な関係の成立は、戦後の歴史上、初めて迎える平和で安定した韓半島及び北東アジア地域の建設の為に、今一番肝要であるという点も広く認識されなければなりません。

 このような時に「韓半島の未来」と言う主題の下、韓半島問題全般に渡ってともに思案し、討論する場が設けられたことは、誠に意味のある、時にかなったことであると思います。

1.新たな千年紀における南北関係の発展的展開

 ご承知の通り、2000年に入って韓国の金大中大統領は、年頭の辞やベルリン宣言などを通じて首脳会談の開催を強力に示唆しておりました。そしてまさしく6月には歴史上初めて平壌にて南北首脳会談が実現いたしました。2000年を起点に南北関係は和解と協力、共存共栄の相生関係へと転換され始めたのです。

 南北の両首脳が、韓半島において二度と戦争を興してはならないという認識をともにし、「6.15南北共同宣言」を行なったことは、分断問題を解決していく上で、画期的な枠組を設けたことといえます。

 以後、私が韓国側の代表として関与した南北長官級会談を中心に、国防、経済、文化、赤十字など各種分野別会談が拡大して定例化され、南北間の直接対話を通じ主要な問題を解決しつつ、平和と和解に向けた実質的な協力関係を築き上げております。

 南北経協4大合意書妥結、京義線鉄道及び道路連結事業推進など物理的な側面から制度的措置が設けられ、窮極的に「南北経済共同体建設」の為の土台が構築されつつあります。

 京義線連結事業は韓半島の大動脈をつなぐ事業として南北間の人的、物的交流の側面からはもちろん、TCR(中国横断鉄道)と連結され、韓半島が大陸と海洋を結ぶ拠点として浮上する通路になるという点から、特別な意味があると言えます。これは、南北韓と中国はもちろん、全アジアの次元においても、また、広大な交易と人的交流のネットワークが形成されるという点からも特別な意味があることだと言えます。

 南北首脳会談以後、今まで3回の離散家族訪問団の往来を通じて約3,600名が再会を果たし、今年は分断史上初めて離散家族間で書簡による交信が実現いたしました。

 この事業は、単なる南北の離散家族再会の意味を超えて人類の普遍的価値を実現させたという点から全世界のマスコミの注目を集めて参りました。

 このような南北関係の進展に歩調を合わせ韓半島問題の根本的な解決の為に冷戦終結に向けた過程も本軌道に進入しております。

 昨年開催された南北国防長官会談では、戦争危機の解除及び「6.15南北共同宣言」を実行する為の軍事的協力問題で合意し、韓半島の緊張緩和と平和定着の為の契機となりました。

 北韓も国際社会への参加に積極的な姿勢を見せております。北韓は現在ほとんどすべてのEU参加国と修交しており、経済視察団を中国と米国に派遣するなど対外関係の改善と政策変更の為の努力を持続的に展開しつつあります。また、長い間断絶されていた日本との関係でも国交正常化をはじめ、対話の努力を続けております。

 特に、金正日国防委員長が年初から新思考を強調して中国上海市を突如訪問したことは本格的な変化と開放に向けた信号であると解釈できることであります。

 しかし、南北関係が半世紀に渡る対決と不信から脱皮し、現在の和解と協力の関係へと転換し始めたことを考え合せると、最近の小康局面に差しかかったようにも見える南北対話の状態は、南北それぞれが一種の息継ぎをして、新たに米国との関係において現れた調整の段階にある、という解釈ができます。南北の間に半世紀近く持ち続けられている敵対心と不信感の強さを考えれば、両者の間に進行速度に対する感覚のずれや紆余曲折があることは、必然的現象として理解されるべきであると思うのです。

 確かなことは、韓半島周辺情勢、北韓の変化、南北関係の進展状況などを総合的に分析した時、韓半島の平和と和解、協力は引き返すことの出来ない歴史の大きな流れとして定着しつつあることであります。

2.平和と繁栄の韓半島時代

 新しい世紀を迎えて南と北は共に「平和と繁栄の韓半島時代」を開拓していこうという共通認識を持っております。

 これは、南北首脳会談の基底に流れる和解と共存の精神で民族史の新しい地平を拓いて行こうとする韓民族の希望と意志の根本に基づくものであります。

 しかし、現在の韓半島の状況ではすぐに統一に踏み切るには多くの無理が伴い、例え成し遂げられたとしても途方もない経済的な負担と心理的衝撃に堪えなければなりません。それだけではなく、韓半島を源に発せられる衝撃と混乱はアジア全体に拡散され、全てのアジアの人達に対し耐え難い苦痛を与える可能性もあります。

 従って、我々が志向すべき目標は既に明らかです。

 韓民族に与えられた当面の課題は、南北首脳会談以後醸成されている和解と協力の雰囲気を更に拡げて行くことであり、韓半島の緊張緩和と平和定着を成し遂げるために、もうひとつの礎石を築くことであると思います。

 そして、現在の調整段階が終了すれば、北韓の金正日国防委員長のソウル答訪による第2次南北首脳会談を成功裏に開催し韓半島の平和体制の基盤を構築するなかで、南北間の実質的な和解と協力が確固として定着するように着実な準備をしなければなりません。

 金正日国防委員長のソウル答訪は、和解と協力の南北関係を決して先送りできない地点まで押し上げ、新たな韓半島の歴史を書き下して行く転機となることでしょう。

 過去半世紀にわたって分断された南北関係の経験に照らしてみた時、韓半島の問題は国際的性格を有しており、韓民族のみの努力だけでは解決し難いという点を私は強調させて頂きたい。

 韓国政府は、国防力の強化と韓米同盟関係を軸に安保を堅く守りながら米国、日本との緊密な政策協力の姿勢を堅持していくことでしょう。

 また、中国、ロシアと協調体制を維持することで韓半島問題に関連する各国が支持、保障できる方向で平和と協力の過程を推し進めることができるようにし、対北和解協力政策に対するアジア各国と国際社会の支持を更に広げて行けるように努力することと信じております。

 このような我々の努力が効果的に進み、具体的な成果として実らせる為には、何より北韓の変化が必要です。

 私は、世界史の大きな流れから見た時、現在の北韓は変化せざるを得ない状況であり、また、既に変化の道へと進入していると思います。北韓は、それが自らの利益となることはもちろん、全民族の生存権と平和を保障する道であることをはっきりと悟られることと思います。

 また、韓国政府は北韓が国際社会に責任ある一員として参加できるように対外関係の改善と国際機構への加入を積極的に支援し続けることもこれに寄与することと信じております。

 これからも北韓が安心して開放の道へと進んでいけるよう説得し、支援の方策を多角的に摸索して行かなければなりません。

3.韓半島の未来

 韓民族の前に平和と繁栄へ向かう「チャンスの窓」が開かれております。

 明確な国家の目標と志向性を持って北韓の変化をどのように扱っていけるのか、南北関係をどのように管理するのかに対する我々の主導力を試す絶好の機会を迎えています。

 しかし、その一方で、韓半島の冷戦構造を解体する為には更に多くの試練と苦痛が迫って来る可能性もあります。

 民族史における重大なこの時に我々に要求されていることは、忍耐と自信を持って、立ちはだかる障害を賢く克服していこうとする姿勢であります。

 同時に、歴史が要求する時代に則した精神と流れを正確に把握して変化する新しい時代に適合する意識と制度的枠組を構築しなければなりません。

 このような過程では、当然世紀の転換という枠組みの中で韓半島全体を視野に入れて森と木を同時に眺めるような次元の高い観点が必要です。

 21世紀の科学文明の知識を基盤とする社会は、人類が想像したことは何でも実現できる可能性のある時代であります。夢がない人は試みることも出来ませんし、与えることの出来ない人は貰うことも出来ません。

 今は、韓半島を「問題の地」ではなく「可能性と希望の地」として見る「発想の転換」が必要であると思います。

 韓民族は、これ以上不必要な反目と対決で民族のエネルギーを浪費したり、歴史の歯車を逆回転させる愚かさから脱皮すべきであります。また、平和と統一を願いながら、これに伴う犠牲と努力を払わないという相矛盾する態度も捨てなければなりません。

 民族の未来を志向する開かれた姿勢で、平和と和解に向けた実践を通じて、互いに助け合い、分け合う知恵をはぐくんでて行かなければなりません。

 私は、このような韓半島の未来を開拓して行くことにおいて、先に指摘したように韓・米・日の協力が何よりも重要であることを改めて強調したいと思います。加えて、対北和解協力政策が一貫して推進できた背景にはアジア各国の指導者の方々の積極的な声援があったことも忘れてはならないことであります。

 北韓問題は、これ以上韓半島に限られた問題であるべきではありません。東アジアでの韓半島の緊張は即ち東アジア全体の不安へと飛火することであり、東アジアの不安はアジア地域全体の平和を脅かすことであります。現代では、平和で安定された地域秩序の構築なくして、どの国も発展と繁栄を実現することの出来ない時代となりました。

 従って、韓半島の平和は決して韓半島に住んでいる人達だけの安定と繁栄だけに止まることではありません。韓半島の平和は、日本人と中国人の平和、アメリカ人とロシア人の安定、そして全てのアジアの人達の繁栄を保障する世界平和の大動脈であります。

 微塵でありましたが、本日私の講演がここに参加されました皆様に、韓半島の平和と安定が、アジアだけでなく世界の繁栄と発展に必要であるという事実をお伝えすることが出来たなら、これ以上願うものはありません。

 また、本日の講演が、韓国政府が推進してきた対北和解協力政策に対する皆様のご理解の一助となりましたら、それ以上私がこの場に立たせていただいた意義を深くするものはございません。

 皆様のご健勝を心よりお祈り申し上げます。

 ご清聴ありがとうございました。

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