「アジアの未来」
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「アジア共通の家」への胎動
危機再発防止で合意
 今回の「アジアの未来」では「一体化」という言葉が繰り返し語られた。経済危機から3年。各国はそれぞれの危機から一応脱出した。そして「危機の再発防止や息の長い成長には、アジア経済の融合こそが必要だ」との合意がアジア人の間に生まれ始めたのだ。

 “アジア共通の家”への胎動を実感させたのは、日韓両国が研究し始めた自由貿易協定を巡る議論だった。

 新日本製鉄の千速晃社長は「共通項を持つもの同士が、できることから始めよう」と同協定の締結を呼びかけた。韓国の崔禹錫・サムスン経済研究所所長も「今、実施すれば韓国の対日赤字が急増する」と問題点は指摘したものの「長期的には望ましい構想」と語った。

 日本はバブル崩壊前まで、韓国は通貨危機まで、相手をライバルと考えていた。だが両国ともに自信を失い経済の融合こそが生き残りの道、とがらりと発想を転換したのだ。

 金融面でも「一体化」が語られた。中国国情研究センターの胡鞍鋼・主任が「アジア通貨基金(AMF)構想に賛成すべきだとの意見が増えている」と述べたうえ、「円の役割を強化する一方、人民元と円の関係を深めるべきだ」と主張した。

 通貨危機当時、中国は日本の主張したAMF構想に対し冷淡な態度に終始した。日本の真意は円の覇権にあると中国が疑ったためとされる。それを考えると、中国の変ぼうは驚くほどだ。世界貿易機関(WTO)加盟が確実となった今、中国はアジアの国家との融合にも動き始めたのだ。

 昨年11月、マニラで初めて首脳会議が開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)。この枠組みに“共通の家”への期待をかける意見も相次いだ。  「ASEANプラス3に豪州とニュージーランドが加わった広域的な自由貿易圏が結成されるよう希望する」(次期WTO事務局長に決まったタイのスパチャイ副首相)  「2、3年後には東アジア自由貿易圏やアジア共通通貨について、アジア人が語り始めるだろう」(シアゾン比外相)

 1年前の「アジアの未来」では、いかに自国が改革にまい進しているかを、各国のパネリストが競って強調した。当時は通貨攻撃の可能性が残っていた。「自分だけはいい子」との主張に必死になるあまり「一体化」は主要テーマになりえなかったのだ。

 ただ“共通の家”を実現するには、多くの課題や障害があることに皆が気が付き始めたのも事実だ。今回の会議では「情報技術(IT)への適応の差から生まれる国家間の格差の拡大」(リー・クアンユー・シンガポール上級相)、「米国の関与の必要性」(スカラピーノ・米カリフォルニア大学名誉教授)などが指摘された。

 そして多くの人が、ここ1年間で急速にきわどさを増した中台関係や、軍事的、経済的に巨大化する中国や日本の経済改革の遅れなどに対する懸念を表明した。興味深いのは今回の会議ではこうした懸念がパネリストの間で率直に語られ、聴衆からも厳しい質問が相次いだことだ。

 「開放政策で個人の自由が増す中、中国共産党の独裁がいつまで続くのか」「経済的には中国への依存を深めながら、台湾が独立を語るのは矛盾ではないか」――。  もうひとつ興味深かったのは、すべてのパネリストが厳しい質問に対して冷静に、誠意を持って答えていたことだ。

 それは、一体化に動き始めたアジア人が「相手をより知りたい」「自分をより理解してほしい」との思いを強めている証(あかし)なのかもしれない。(アジア部 鈴置高史)


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