「アジアの未来」
NIKKEI NET

フロントページ
速報
8日の概要
9日の概要
会議日程
講師略歴
アジアの未来'99
アジアの未来'98
アジアの未来'97
第5回アジア賞
ENGLISH
孔 魯 明(コン・ノミョン)東国大学碩座教授、元外務大臣(韓国)
韓日の新時代と朝鮮半島の安定
 来たる6月22日は、韓日国交正常化のための韓日間おける諸協定が締結されてから、35周年を迎える。35年前のこの日、韓日両国は14年間に及ぶ長い歳月を経ての国交正常化交渉に終わりを告げ、ここ東京で韓日間における基本条約をはじめ、諸協定に署名をすることにより、両国間の和解の道が歩み始められた。

 1965年の歴史的な韓日国交正常化から35年が過ぎた今、我々は"韓日の新時代"という言葉をよく耳にする。それは、韓国の金大中政権発足後に生まれたもので、21世紀に向けた両国関係を指している。

 我々はなぜ「韓日間の新時代」と呼ぼうとしているのであろうか。新たな意味を付け加えようとする理由が、何なのかを探ってみる必要がある。それは、1998年10月に、金大中大統領と小渕前総理との間で合意、署名された"21世紀の新たな韓日パートナーシップ共同宣言"を多分に意識したようである。この共同宣言で、金大中大統領と小渕前総理は、"21世紀の確固たる善隣友好協力関係を構築していくためには、両国が過去を直視し、相互理解と信頼に基づく関係を発展させていくことが重要である"との認識の下、小渕前総理は日本の過去の一時期に、植民地支配によって韓国の国民に、多大な損害と苦痛を与えてしまったという歴史的事実を謙虚に受け入れながら、これに対して"痛切な反省と、心からの謝罪"を表明し、金大統領は小渕前総理の「歴史的認識の表明を真摯に受け入れて評価すると同時に、両国が過去の不幸な歴史を克服し、和解と善隣友好協力に基づいた、未来指向的な関係を発展させていくために努力することが、時代的な要請である」という内容を表明した。

 1980年代以降、日本の指導者による歴史的認識表明と、両国間の指導者らによる、未来指向的な韓日関係発展のための希望が、繰り返し表明されてきたのは事実である。今回と異なるのは、このような日本側の歴史的認識と韓国側の過去克服、そして未来指向的な関係発展のための意志表明が、両国首脳間の"共同宣言"という外交文書を通じて表明されたことを受け、この問題を解決しようとする強い意志、即ち20世紀に起きた問題は,今世紀内に解決するという意味が表明されている点である。

 両国政府によるこのような強力な政策的意志は、共同宣言の付属書に盛り込まれている5つの分野と、43項目にわたるアクションプランに盛り込まれている。

 韓国側は、このアクションプランに基づいて、日本の大衆文化の開放を段階的に実施し、その結果、これまで韓国の映画館では上映できなかった日本の大衆娯楽映画、「ラブレター」や「Shall We Dance」等が上映され、日本映画が韓国の若者達の間で人気を博した。一方、日本では韓国映画「シュリ」が人気を博している。今年の初めに発表された、日本の総理府の意識調査によると、韓国に親近感を感じるという人が、11年ぶりに、そうでない人を上回り、最近の両国関係を良好なものであると評価する数字は、52.1%に達することがわかった。日本側の報道によると、好転の背景として2002年のワールドカップサッカーを、両国が共同で開催するということと、韓国側による日本の大衆文化の開放措置が、このような結果をもたらしたものだと分析している。

 1998年10月の、金大統領の日本訪問以前と、その後の韓日新時代へと移る過程で感じる変化が、いくつかある。まず、韓国側に対していう韓日関係を、従來に比べて、より前向きな姿勢で接していると言えよう。

 去る5月24日に、韓日両国の政府機関である経済研究機関は、韓日間の包括的な自由貿易協定締結の可能性に対する共同研究の結果を発表した。これは、1998年10月以降に行われた首脳会談や閣僚会談,民間経済人会議等で出た、両国の経済関係強化案を幅広く検討するために進められた研究の結果である。韓国の対日輸出は、1997年は122億ドル、対日輸入は279億ドルで、約156億ドルの赤字となっていることからわかるように、毎年130〜150億ドルの赤字となっていることは事実である。このような韓国が、より長期的な観点から、両国の経済関係の発展を視野においた自由貿易協定締結の可能性を検討し、これを公論化する意味は大きいといえる。

 また、昨年8月初め(8月2日〜8日まで)には、済州島と九州間の海上で史上初めて、韓国の海軍と日本の海上自衛隊との人命救助のための共同訓練が行われた。現在、韓国と日本の間では、パートナーシップ共同宣言に基づき、安保対話を定期化し、国防関係者の交流と対話の拡大を図っている。

 このように従來は、問題の内容が過敏(sensitive)ゆえにタブー視されていた分野における交流と対話が進められている点を看過することはできない。

 今年の初めに、私は日本の古くからの友人から年賀状をもらった時、元外交官で、現在は戦略問題の評論家として活動をしている彼は、「日韓関係、日・韓・米の関係が、あまりにも急速に進展して良くなっていることに対し、驚いており嬉しい限りです」と書いてきた。彼の意味するところは、北韓(北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国)のテポドン・ミサイル発射後、日本の国内で高まっている安保意識や韓日両国間における緊密な安保に対する対話と、改善された国防当局者間における相互理解と交流、そして強化された対北朝鮮政策に対する、韓・米・日の緊密な政策協議を意識したコメントとして受け止めたい。

 両国の善隣友好協力関係にも拘わらず、韓日関係において、複雑な問題が山積しているのは事実である。漁業問題のように、問題によっては利害関係が絡む問題も少なくないということも、事実である。

 しかし、両国の当事者全員が、過去に執着せず、両国の善隣友好協力関係の維持が、両国が共有する戦略安保的、かつ経済的利益に寄与するという認識を持って挑むのであるならば、韓日関係は生産的で未来指向的な関係が定着すると思われる。

 このような過程において、我々両国民は韓国の15世紀の学者であり、外交官だった申叔舟が、日本と琉球を見聞した記録「海東諸国記」に記している"隣国に対しては、礼が基本であり、その次に誠意を持って接すること"という精神にのっとって接することが、大事なのである。

 先週の月曜日(5月29日)に、森総理が日帰りでソウルを非公式に訪問し、金大中大統領と会談を行なった。同首脳会談で、両首脳は、両国間における共同関心事に対し、予定時間をオーバーして幅広く意見交換をしたもようだ。

 とりわけ、6月12日から14日まで、ピョンヤンで開催される南北首脳会談に関しても話し合われた事実を、両首脳は共同記者会見で明らかにした。

 韓国戦争(朝鮮戦争)から50周年になる6月に、また分断55年ぶりに南北間の最高指導者が、一堂に会して会談を行なうということは、意義深いことである。しかし、この時期になぜ北朝鮮が、金大中大統領が1998年2月以来提議してきた首脳会談を受け入れたのであろうか。韓国当局との対話を実現するには、駐韓米軍の撤収を意味する外交排除や国家安保法の撤廃、北朝鮮の同調者に対する活動の自由化の保障等を条件に掲げていた、北朝鮮の態度に変化が見られた理由が何なのかについて、考えざるを得ない。

 1994年に金日成主席が死亡後に、自然災害や農業の崩壊により、食糧難や経済難に陥っている北朝鮮は、昨年からキム・ヨンナム最高人民会議常任委員長の北京訪問をはじめ、ペク・ナムスン外相の第54回国連総会の出席やヨーロッパ等の外相との会談、並びにドイツ,ロシアを訪問する等、外部の世界に目を向けながら、孤立から脱皮しようとする動きをみせている。これは、国内的には食糧難や経済難が最悪の峠を脱したのと、1998年秋に北韓労働党の総書記で、国防委員長に就任した後、金正日総書記の権力継承が順調に進んでいることから、国内の基盤がそれなりに確立されているということを意味するものと考えられる。そのような彼に、北朝鮮経済の速やかな再生なくしては、政権そのものに危機が訪れるという切迫感から、経済再建が最大の課題になったのである。産業並びに農業の現場に対する指導訪問が、頻繁に行なわれているのも、これを裏付けている。

 また、このような彼にとって執権以降、政権分離の原則にのっとった北朝鮮の和解と交流を掲げる韓国の太陽政策が、注意を引いたと考えられる。韓国政府は1999年の夏に、西海岸で韓国の海軍艦艇と北韓の艦艇が衝突した渦中においても、北韓に送る肥料の輸送と東海岸における金剛山観光ツアーは、中断されることなく推進した。そのお陰で北朝鮮は、昨年末までに2億1000ドルを超える金剛山観光収入を得たのである。

 金大中大統領は今年の3月9日に、ベルリン自由大学での講演で、南北首脳会談の協議を想起しながら、北朝鮮に対し、社会間接資本の建設をはじめ大規模な経済協力を提起した。

 一方、核開発疑惑の解消やミサイル等、大量殺傷兵器開発の中断等の問題が解決されなければ、関係改善の見通しが暗いだけでなく、今年の11月の大統領選挙を控えた米国から、短期的に援助や協力を期待するのは困難であり、日本もまた、複雑で多難な国交正常化協議を控えている状況下において、北朝鮮の経済再生のための援助と、協力の用意を表明した韓国の提議に、関心を持っているのは当然のことである。

 韓国の政府当局は、今回の首脳会談で金大統領のベルリン宣言の内容を中心に、対話が進められるものと示唆している。従って、金大統領が自由大学で行ったベルリン宣言の提議の内容に関して言及する。

 金大中大統領は、講演の中で次の4つの点を北韓に提議した。

 第一に、北韓への経済協力を行なう用意があることを表明し、次のようにした。

・現在,政経分離の原則の下に民間レベルでの経済協力を進めているものの、本格的な経済協力を進めるためには道路、港湾、鉄道、電気、電話の施設等をはじめとする社会インフラを拡大させなければいけない。

・そのためには、南北の政府当局による投資保証協定と二重課税の防止協定の締結が先決である。

・北朝鮮の食糧難は、食料の供給だけでは長期的な解決は困難であり、根本的な解決のためには肥料の供給、農機具の改良、関係施設の改善等の基本的な農業構造の改善が要求される。

・これら全ての事案のために、政府当局間における協力が必要な段階に達しており、北朝鮮当局の要請があった場合には、積極的に検討する用意がある。

 第二に、現段階においては統一を追求するよりは、冷戦の終息と平和の定着を期する。韓国側は北朝鮮に対し、真なる和解と協力の精神にのっとって、援助をしようというものである。北朝鮮は、韓国の善意に対して留保なく受け入れるよう望む。

 第三に、北朝鮮は、何よりも人道的な見地から離散家族の問題解決に対し、積極的に応じなければいけない。高齢の家族が亡くなっているという事実を考えると、時間的な余裕はない。

 第四に、南北間における諸懸案の解決のためには、これ以上遅滞せず、当局間の対話を始めることが重要である。2年前の就任式の演説で、基本合意書を施行するための特使交換を提議したことがあるが、これを受諾するよう促す。韓半島問題は、終局的には南北当事者間で解決しなければならず、韓国政府はこの原則を遵守する。同時に、大部分の国際社会が、南北間のこのような努力を支持することにより、韓半島における冷戦が終息するよう、積極的な応援と支持を、今後も惜しまないよう望む。

 以上が、ベルリン宣言における4項目の提案である。金大統領は、このような協力の前提として、北朝鮮に対し3つを保障し、同時に北朝鮮も韓国に3つを保障することを要求している。まず韓国は、1)北朝鮮の安全を保障する。2)北朝鮮の経済回復を支援する。3)北朝鮮の国際社会への進出に対し、協力をする。その代わり、北朝鮮も1)韓国に対する武力挑発を絶対に放棄しなければいけない。2)核兵器の放棄に対する約束を遵守しなければいけない。3)長距離ミサイルに対する野望を捨てなければいけない。金大統領は、自らの接近方法は、互恵主義の原則にのっとって、包括的な解決を試みるWin−Win方式であると言っている。

 上記のように、韓国と北朝鮮の間には、1つの共通点がある。即ち、韓国は北韓に対し、一定の条件が満たされたときに、大規模な経済協力を実施するとしており、北朝鮮は経済再生のためには韓国からの協力を必要としているのである。このような共通点が、今回の南北首脳会談でどのくらい作用するのかについては、全面的に北朝鮮側の選択にかかっているとしている。

 金大統領は、「スプーン1さじでは、お腹がいっぱいにならない」という韓国の諺を引用しながら、あまり過度なる期待は禁物であるという点を、国民に注意を呼びかけている。私も今回の南北首脳会談の最低ライン(bottom line)は、分断55年ぶりに双方の最高指導者が対面して話し合うということ自体に、意義があると言えるもので、もし両首脳が再開を約束するならば、それが成果であるとの見方を示している。

 また、このような最低ラインの期待以上に北朝鮮が応じてくるならば、我々は容易な問題を解いていきながら、金大統領がベルリン宣言で言及した3つの保障に対するキム・ジョンイル(金正日)総書記の確かな約束を守っていかなければいけない。北朝鮮の態度の変化なしでは、韓国の太陽政策としても経済協力に限界があるということを、北側は認識すべきである。

 韓国政府は、経済協力を提供する代価として、北朝鮮側からの安保問題に対する北朝鮮側の公約を得なければならない。万一、そうでない場合は、韓国の国内に混乱が惹起されると予想され、また、米国や日本との協調体制にも緊張が生じると思われる。韓国の支援と経済協力が、北朝鮮の戦争遂行能力を強化させる結果になってはならない。北朝鮮側が武力統一政策を放棄し、国際社会の中で責任ある一員として協力していくならば、韓国をはじめ友好国は、積極的に北韓に対する協力を惜しまないであろう。

 韓半島の平和と安定問題は、日本にとっても重要な問題である。それがゆえに韓国と日本は、両者的な立場からのみならず、他者的な立場から緊密に協力してきた。日本はこれまで平和統一政策をかたくなに支持してきた。

 北朝鮮の核問題と関連し、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の理事国の一員として緊要な役割を担ってきた。日本は現在、北朝鮮と国交正常化協議を進めているものの、日朝関係の正常化に至るまでは、かなりの紆余曲折が予測される。

 金大中政権は、北朝鮮が孤立から脱して、国際社会の中で責任ある一員として行動するように誘導するのが、韓半島で戦争を防止し、平和と安定を期すことができるという見地から、日本の対北朝鮮国交正常化協議を支持し、支援していく方針である。

 5月に予定されていた第10回日朝国交正常化協議は、南北首脳会談の関係で延期されたもようであるが、北朝鮮は今後、対米協議と同一な線上で、対日国交正常化協議に重点をおいて進めるものと思われる。

 今回の南北首脳会談の開催合意でみられるように、北朝鮮のような専制主義政府は,世論を意識することなく、突然変化する可能性があるため、いまたとえ停滞しているものの、日朝協議も北韓側の事情によっては急進展する可能性を、常に胚胎していることを忘れてはならない。

 これにより、我々は今後の対北韓政策を展開していく際にも、次のような点に留意しなければいけない。

 第一に、北朝鮮が責任ある国際社会の一員として行動をとるよう誘導することにより、韓半島の平和と安定の構築のために寄与するよう促す。

 第二に、そのためには北韓が地域の平和を脅かす核開発やミサイルの開発を、一切中断するようにする。このような目標達成のために、韓・米・日は緊密に協議を行い、協力する。

 第三に、このような目標に向けて韓・米・日の3国は、それぞれ必要時の役割を分担する。現在、一部のマスコミでは南北首脳会談において、米国は北朝鮮の核とミサイル問題が首脳会談の議題に入れなければいけないという立場をとっているのに対し、韓国は経済協力と和解に比重をおいているという点を挙げて、まるで韓・米間における意見の違いがあるような報道をしているものの、私は現段階の南北関係をみると、韓・米・日の3国間における役割分担は、不可欠だと考える。

 上記で、すでに述べたように、韓国からの経済協力の獲得にまず関心がある北韓としては、韓国側の核とミサイル開発の放棄に関する問題を提起しても、真摯にこの問題の論議に応じてくるのかについては、疑問である。従って、この問題は、米国や日本が北朝鮮との関係正常化において、より重点をおいて扱うことが、現実的な接近方法であると思われる。勿論、韓国側としては北朝鮮に対する経済協力を進める中で、当然必要である安保面での前提条件の充足を要求する方針であるが、最初の関門からこの問題にこだわるとするならば、これが果たして、懸命な選択だといえるのかは疑問である。

 そのために、我々は韓・米・日の間における、緊密な政策面での協議を行う必要であると思われる。

 第四に、韓半島の問題解決のためには、韓・米・日の3国は、北朝鮮と歴史的な関係を維持している中国、並びにロシアとも協議を続けていくことによって、中国とロシアの不必要な警戒心を取り除く努力をしなければいけない。北朝鮮は、ロシアとはソ連崩壊以降、これまで協議をしてきたロシアとの「親善・善隣・協力条約」を、昨年3月にロシアのキリシン外務次官がピョンヤンを訪問したときに仮署名をし、今年2月には、イワノフ外相が北韓を訪れたときに、正式に署名し、締結したことにより、ロシアとの関係修復が図られた。そして先週、北朝鮮の金正日総書記が、極秘で北京を訪問したという事実は、これまで孤立状態に置かれていた北朝鮮が、南北首脳会談を目前に、古くから伝統的な血盟関係であるが、この間冷え切った関係にあった中国との関係修復のために必要な、最後の手順を踏んだということを意味する。韓半島における核やミサイルの開発が、韓半島の平和と安全にプラスにはたらかないと考え、南北間の対話を支持する中国の前向きな協力は、韓・米・日の3国にとっても、韓半島の問題解決においては必要なことなのである。従って、我々は中国とロシアの協力を引き出す努力を、怠ってはならない。

 もし、来週ピョンヤンで開かれる歴史的な南北首脳会談が、我々が期待しているとおりに、新たな南北関係を開くことができる出会いになれば、我々は韓半島における平和の定着と究極的な平和統一に向けての、永い旅立ちの第1歩を歩み始めることになる。しかし、そのような方向に事態が進展したとしても、それは我々の期待よりは、時間がかかる可能性が高いという点に留意しながら、あまり期待だけが先走ってしまうようなことだけは、避けたほうが良いと思われる。冷戦体制の陰におかれていた韓半島にも、21世紀の幕開けと共に、果たして変化が訪れるのかが期待されるところである。

前のページへ
Copyright 2000 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.