「アジアの未来」
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千速 晃 新日本製鉄社長
東アジア経済の発展と日韓協力について
 只今ご紹介にあずかりました、新日本製鐵の千速です。

 日本の産業界に身を置く者として、東アジア経済の相互依存関係の深化と、その中における日本と韓国の役割について意見を述べさせていただきます。

 世界における地域経済圏の形成の動き

 世界を見渡しますと、国境や地域を越えた経済のグローバル化が急速に進行しております。

 しかし一方で、「地域経済圏」という単位で経済政策・産業構造を強化していく動きも大きな流れとなっていると認識いたしております。

 EUは、関税引き下げに留まらず、投資・サービスの自由化、労働市場の統合、経済政策の共通化、更には通貨統合を果たしました。

 南北アメリカ大陸は、NAFTA、メルコスール、アンデス共同体が一体となって自由貿易圏を創設する方向で議論を進めております。

 また、ASEAN諸国も域内貿易の活性化をはかるため、域内関税の引き下げについて合意しております。

 日本は、これまで多国間の関係を重視しておりましたが、こうした世界の潮流の中で、WTOの枠組みを踏まえつつ、近隣諸国との相互依存関係を一層深めることが期待される状況となっていると申せましょう。

 東アジア経済の位置づけと新しい秩序の構築の必要性

 東アジア(日・韓・中・台・香港・ASEAN諸国)は、80年代から90年代初頭にかけて、日本、そしてそれに続く韓国・台湾・香港・シンガポールといういわゆるNIES諸国が、この地域の経済発展を牽引して参りました。

 3年前にタイ・バーツ切り下げに端を発する通貨危機を経験しましたが、その後の調整過程を経て、パソコン、家電製品などの製造においては、域内でのネットワークが確立され、世界市場において高い評価を得ているなど、市場が先行する形で相互依存型の経済構造に移行しつつあります。

 今や東アジア全体の経済規模は、世界の約4分の1にまで拡大し、EU、NAFTA(各々約3割)に互する存在となっており、長期的にも高い成長が期待されております。

 私は、この東アジアが、21世紀における健全な経済発展を支えうる新しい秩序を構築しなければならない時期にあり、またこのことは、日本が今後、東アジア諸国とどう関わっていくか考える上で重要な問題であると認識しております。

 「深く奥行きのある東アジア地域経済圏」の確立を

  東アジアの域内貿易比率は約50%と、NAFTA(約50%)やEU(約60%)に比肩する水準にまで拡大しており、また、各国は経済的に自立しうる潜在力を備えるまでに成長しております。

 そして、それぞれの特徴を活かしながら相互依存・相互連携を強化することによって、確固たる「地域経済圏」を確立することが可能であり、様々な効果をもたらすものと確信いたします。

 まず、貿易・投資の拡大を狙いとした自由化を進めることにより、域内の産業レベルでの競争と相互補完の分野調整や各種規制緩和を促進することができ、各国で進められている構造改革が加速化され、この地域において「深く奥行きのある」産業構造を構成することが可能となります。

 また、経済的な相互依存関係が深まり安定化することが、結果として地域全体の政治・外交的なメリットにも結びつくものと考えます。

 更に、東アジアが、他の地域に対して開かれたかたちで「地域経済圏」を確立すれば、世界全体の多国間の貿易・投資の拡大の議論の中で、EU、NAFTAなどへの健全な牽制力として、世界経済の安定化に寄与するものと確信いたします。

 「東アジア地域経済圏」確立を目指した動き

 こうした中で、昨年11月にマニラで開催されたASEANプラス日中韓の首脳会議において、東アジアの協力関係を強化していくとの合意がなされました。

 これを受けて本年に入り、5月にチェンマイで通貨スワップ協定が蔵相会議で合意され、同じ時期にヤンゴンでアンチ・ダンピングの措置ルールを明確にするための経済閣僚レベルでの合意がなされました。

 3年前の通貨危機の反省を教訓とし、未成熟であった地域協力を改善しようとする、こうした政府レベルでの努力を歓迎する次第です。

 また、中国もWTO加盟に向けて、昨秋に米国と、そしてつい最近EUと合意に達するなど、市場経済化が大きな前進を遂げつつあります。

 今後は、東アジアにおける市場経済メカニズムが一層発揮され、本格的な「地域経済圏」を形成するため、

(1)宮沢構想に基づく情報通信、環境・エネルギー、ロジスチクス等、各国の産業育成に必要なインフラの整備

(2)投資、関税、知的所有権、規格など、経済活動の前提となる包括的ルールの構築と諸制度の調和

(3)円の国際化や通貨バスケット方式の導入など、域内の為替リスク低減に資する新しい通貨体系の構築

(4)各国の裾野産業を強化させるための人材育成と産業レベルでの知的交流の拡大 などの仕組みが整備されることが期待され、民間としても一定の役割を果たしていく必要があるかと思います。

 しかし一方、東アジアにおける国毎の経済発展の段階は大きく異なり、また、民族・言語・宗教などが極めて多様化しております。

 このため、私は、「東アジア地域経済圏」を確立するためには、まずは「共通項を持つもの同志」が「出来ることを着実に進める」、ということが現実的ではないかと考えます。

 日韓両国の役割

 こうした観点から日本と韓国は、隣国であることはもとより、産業構造や産業組織において共通する部分が多くあります。

 そして、両国の東アジアに占める経済規模は70%を越え、この地域で極めて大きな存在となっているとともに、ただ二国のOECD加盟国であります。

 幸いなことに、日韓両国を取り巻く環境は、一昨年のキム・デ・ジュン大統領の来日を契機に、大きな改善を見せております。

 韓国経済が、企業経営や金融など一連の構造改革が実を結び、急速に回復したことにより、このところ日韓両国間の貿易・投資は大きく拡大いたしております。

 更に、日韓自由貿易協定に関して両国専門家による共同研究が進められており、今後は、双方が納得の行くかたちで如何に実現するかという段階に入っております。

 私は、今や日韓両国がイコールパートナーとして、より高度で戦略的かつ緊密な関係を構築し、東アジアの経済発展と安定に貢献する時期に来ていると思う次第です。

 こうした中で、両国の産業界が、相互間の貿易・投資の拡大に留まらず、東アジアにおいて共同で事業展開を行っていけば、この地域において「深く奥行きのある経済圏」を構築する上で、大きな原動力となるものと確信いたしております。

 既に、石油プラント・電力などの分野で、両国企業が東アジアにおいて共同で事業を展開する例がありますが、鉄鋼業においても韓国のPOSCOと、当社を始めとする日本の鉄鋼メーカー、そしてタイ企業の三者が、タイにおいて冷延鋼板製造プロジェクトを発足させ、昨年11月に稼働を開始いたしました。

 今後とも、当社はPOSCOとともに、アジア地域における鉄鋼業の安定的な発展を果たすべく、戦略的なパートナーシップ関係を強化していく所存であります。

 アジア経済が成長軌道に戻りつつあるこの時期を捉え、日韓両国がイニシアチブをとり、域内貿易・投資の自由化を積極的に各国に働きかけることにより、産業育成のための環境整備を進めるとともに、豊かな多様性を保ちうる「東アジア地域経済圏」の形成に、ともに力を合わていくことが必要であると考える次第です。

 また、折しも先週開催された日韓経済人会議に見られるような両国間の産業・民間レベルでの知的交流、或いは、産業協力の在り方について中国を含めて対話を拡大していくことも大切であると思います。

 私は、韓国との間で培われてきた友好関係を一層深め、今後とも協力して東アジアの経済発展に貢献して行きたいと考えております。

 ご静聴、ありがとうございました。

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