「アジアの未来」
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アジアは危機から好機を見出せるか
伊藤麗花 慶應義塾大学法学部政治学科(3年)
 私が国際交流会議「アジアの未来」に参加させていただきたいと考えた理由は、アジア地域の将来的な発展について、各国の政府・民間の指導者たちがどのような構想を描いているのかを、彼らの声を通して聞きたかったからである。冷戦終結後の東アジア地域では、経済・社会・環境などあらゆる分野で国家間の相互依存関係が著しく進展し、その結果生じた諸問題に対応するために地域統合の流れが加速してきた。その一方で、アジアには多様な政治体制や価値観、歴史認識の相違による対立が存在し、共同意識が欠如しているため、EU(欧州連合)のような制度的枠組みが形成されるのは非常に困難であるとの指摘もある。しかし、危機はしばしば国家間に協力体制をもたらす。1997年のアジア通貨危機が東南アジア諸国連合(ASEAN)+3会合を実現したように、2008年秋に発生した世界的な金融危機はアジア地域に協力をもたらしうるのか。そして、アジア各国の指導者たちは金融危機後のアジアのあるべき姿をどう描いているのか。このような問題意識を持って講演に臨んだ。

 今回、2日間にわたってアジア各国の指導者たちの講演やディスカッションを聴いた上で、彼らからの強いメッセージとして受け止められた点は主に2点あった。

 1点目は、世界同時不況の中でも、例えば環境ビジネスや物流インフラ開発などの分野で、アジアには潜在的に大規模な経済発展を遂げる余力がまだまだ残されているということである。これらの分野の特徴は、政府間協力の枠組みにとどまらず、民間の企業や投資家たちがステークホルダーとして積極的に関与していることであろう。シンガポールのケッペル・コーポレーションが天津・蘇州などで中国政府と共同開発を進める「エコ・シティ」構想や、日本通運が整備した上海・シンガポール間を陸路で結ぶ「SS7000輸送ルート」は、いずれも企業の収益性を確保しながらアジア全体の経済発展に貢献し得る事業であった。未曾有の経済危機下においても、アジアには成長につながる多くの潜在的可能性があると言える。

 2点目は、アジアは世界同時不況からいち早く回復する見込みがあり、アジア諸国が今後とも域内連携を強化することにより世界経済の成長エンジンとして中心的な役割を果たすべきであるという明確なメッセージであった。金融危機後のアジア構想について私が最も感銘を受けたのは、韓昇洙(ハン・スンス)韓国首相が提示したビジョンである。それは、アジアにおいて環境に配慮した持続可能な発展を達成する社会を実現するため、技術・資金面で協力することが、かつて欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)がEUへと発展したように、将来的な協力体制の構築につながる可能性があるというものであった。このような構想はまだ遠い未来のものかもしれないが、もはや非現実的と一笑に付すことはできなくなったのではないだろうか。

 アジアの未来に希望を見出した指導者たちは、同時にアジアの内需拡大、域内格差の是正、社会福祉の充実など、アジア経済が抱えるいくつかの重要な構造的問題を指摘した。また、一口に「アジア」と言っても、これが指す範囲について、東アジア・北東アジア・東南アジア・アジア太平洋など各国の立場の相違による認識の差異が見られた。構造的課題をいかにして克服するのか、またどのように多様性を共同意識に収束させていくのか。このような視点が、アジアの未来を切り開いていく上で欠かせないように感じた。

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