「アジアの未来」
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第14回国際交流会議「アジアの未来」を聴講して考えたこと
竹岡志歩 東京大学
 2つのゼミに所属し国際貿易と金融を専攻している私にとって、国際交流会議「アジアの未来」で一番印象深かったのは初日冒頭の「サブプライムローン問題とアジア」のセッションだった。昨年夏に表面化した米国発のサブプライムローン問題は、当初予想されていたよりもはるかに大きい爪痕を世界に残した。とりわけ、欧米の金融機関や金融システムに残した影響は大きかった。だが、それはアジアにとってはどうだったのか。

 新聞などでは、アジアの金融機関のサブプライムローン関連金融商品への投資は限定的で、損失は比較的軽微だったと伝えられている。東アジアの経済統合が民間主導で進む中で、20年前に30%台だった東アジア(ASEANと日中韓、香港、台湾)の域内貿易比率は2005年には56%にまで高まり、欧米の景気減速に伴う貿易ルートを通じた影響も昔ほど大きくはないはずである。東アジア経済の米国経済との連動性は薄れているとするいわゆる「デカップリング論」は、そんな貿易構造の変化を反映した意見だ。しかし一方で、やはり連動性は無視できないという「リカップリング論」も息を吹き返している。実際のところはどうなのか。そんな関心を持って私はこのセッションに臨んだ。

 いくつかの疑問が目から鱗が落ちるように解け、新しい発見があった。バンディッド・タイ中央銀行副総裁やモデレーターの榊原英資・早大教授が指摘したように、金融チャネルを通じた影響はやはり軽微。アジア開発銀行チーフエコノミストのイフサル・アリ氏は貿易チャネルを通じた影響を指摘したが、それも「域内貿易で補完できるかもしれない」と述べた。インド国際経済関係研究所のラジブ・クマール所長も「影響が及ぶメーンチャネルは貿易だが、インパクトは少ないかもしれない」と指摘した。アジア開発銀行が4月に発表した2008年のアジア地域のGDP伸び率見通しは7.6%で、0.6ポイント下方修正されたとはいえ中国とインドがけん引役となって全体としては堅調さを保つという結論だったが、それを思い出した。

 なるほど!と思ったのは、サブプライムローン問題の影響で世界のマネーが原油などの資源や穀物に急激に向かい始め、資源高や穀物高を引き起こして、それがアジア各国を直撃しているという指摘だった。ベトナムでは現に、20%を超えるインフレが起こっている。中国の物価上昇率も8%台に高まっている。榊原モデレーターはこの「資源、穀物高にどう対応するかが今のアジアにとって極めて重要」と総括したが、そのとおりだと思った。日本は長年、減反政策をとり、中国も21世紀に入ったころから低生産性耕地をつぶす「退耕還林」と呼ばれる政策をとってきたが、穀物高で状況は完全に変わったのではないか。バンディッド・タイ中央銀行副総裁が「食糧生産性の向上に対する投資が必要」と言ったのにもうなずけた。

 アジア各国は1997年のアジア通貨危機を境に、資本輸入国(経常収支赤字国)から資本輸出国(経常収支黒字国)に転換した。外貨準備も膨れ上がった。余った資本の主な向かい先は米国債で、米国の過剰消費とそれに伴う経常収支赤字拡大の相当部分を、経常収支黒字国化したアジアの国々がファイナンスする構造が続いてきた。しかしサブプライムローン問題が意味するところは、米国の需要が世界経済を牽引していく時代が終わったということであり、米ドル一極基軸通貨時代の終焉が始まったということだと思う。となるとアジアは、資本を必要とする自らの需要を創出し、アジアの余剰資本をアジアのために使える態勢にシフトしていかなければならないのだと考える。それがサブプライムローン問題で傷んでいる世界経済への貢献にもつながる。

 アジアでは、ブー・フイ・ホアン・ベトナム商工相と甘利明・経済産業相の対談でも話題になっていたように、インドシナ半島で東西回廊の整備が進むなど物流インフラストラクチャーの整備が進んでいる。こうした整備の需要はまだまだあり、インフラ整備を進めること自体が東アジアの経済統合を側面支援する面もある。需要をうまく掘り起こし、アジアの余剰資本をそこに使えるような仕組みづくりが今のアジアには必要なのだろうと感じる。これまでは掛け声倒れに終わってきたアジア債券市場の育成、アジアバスケット通貨ACUの導入――などの実現を真剣に議論できる環境がいよいよ整ってきたのではないだろうか。

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