アンソン・チャン氏(香港政務官)
困難な課題、直視を・市場自由化が繁栄導く

 「アジアの恐るべき年」として描写されるだろう1年間が過ぎようとしている。アジアの多くの人にとって、状況は好転する前にいったん厳しくなるかもしれない。私たちはこの事実に向き合う必要がある。私は憂うつなことを言っているのではない。正常な状態に戻る前に、直面する課題や克服する必要のある障害を認識しようとしているのだ。

 「正常」とはどういう意味か。私の定義はより強く、より賢明で、より成熟した透明なアジアであり、世界経済の中で不安を感じない場所ということだ。アジアは過去そうだったように、誤りから学び、逆境を機会に変えるだけの知恵と手段があると言える。

 すでに私たちは改革、リストラ、緊縮財政の実行という痛みの伴う措置を経験しつつある。それが結果としてアジアの市場の自由化につながることを希望する。アジアの次世紀における繁栄を持続させ、さらに安定的なものにするには次のようなことが必要だろう。(1)企業、金融機関の積極的な情報開示(2)市場の情報を金融当局と株主がよくつかめる仕組みをつくる(3)政治的介入をやめ市場原理にゆだねる――の諸点だ。

 北京の指導者は人民元を切り下げないと言っているが、それはうわべだけの約束ではない。中国の指導者は人民元切り下げが香港経済に与える影響の大きさを十分理解している。香港ドルが安定していることが、アジア地域のさらなる混乱を防いでいることもよく知っているのだ。

 日本の景気低迷が他の東アジア諸国にもたらす悪影響の大きさについて、依然いろいろな国・地域で強い懸念がもたれている。日本の景気後退は域内の貿易を抑えるだろう。日本からこの地域への融資や直接投資は減りそうだ。

 円安は東アジアの通貨を一層下落させるかもしれない。日本政府は景気刺激のための財政措置を最近発表したが、本格的な景気回復のためには一段の踏み込んだ対策が必要だと思われる。

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