ドミンゴ・シアゾン氏(フィリピン外相)
平和の枠組み再編成・通貨含め地域統合強まる

 東アジアは過渡期にある。困難ではあるが前に向かって進んでいる。企業はグローバルな生産、貿易、情報ネットワークの一員になるという戦略決定をしている。市場とグローバル志向を失わない限り、アジアは回復のエネルギーを奮い起こすことができる。

 東アジアではインド・パキスタンの核開発競争、朝鮮半島情勢、中国・台湾関係など、安全保障上の脅威がいくつかある。平和を確保するため冷戦後の戦略的な安保構造の再編成が急務だ。

 東アジアでは欧州における欧州安保協力機構(OSCE)や北大西洋条約機構(NATO)のような(安全保障に関する)組織が整っていない。ASEAN地域フォーラム(ARF)の意味はこうした視点からとらえる必要がある。

 ARFは同盟でも地域組織でもない。地域の主要国がすべて集まって対話する独特な仕組みだ。しかし、時間がたてば相互信頼感を生み、紛争の管理、解決、防止を目指して決定し行動できる組織になっていくだろう。

 米国が日本などに提供してきた核の傘は過去数十年間、地域の安全保障を支えてきた。この体制は維持しなければいけない。中国は平和的な交渉、調停などで(領有権を巡る)紛争を解決しようとする姿勢を行動で示し、近隣国を安心させる必要がある。

 東アジアが永続的な平和と繁栄のため、国家主権を制限する政治組織をつくるのに今後どれくらい時間がかかるかわからない。しかし、地域統合は強まっている。東アジアが「円―元貿易圏」となり、日本と中国が地域の最大市場、成長エンジンとなる可能性もある。欧州単一通貨ユーロはこの傾向を促す。東アジアが独自の貿易通貨を持つのは時間の問題かもしれない。

 各国がまとまって地域貿易圏を形成し、さらに経済共同体に発展することを基礎とすれば、東アジア経済の将来像を立て直すことができる。各国が経済統合に向かえば政治、安保上の利害も収れんする。

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