モーリス・チャン氏(台湾積體電路製造董事長)
経営スタイルを世界標準に転換

 企業がカネ、ヒト、市場を巡り世界で競争を展開する中で、いわゆる「アジア型経営」は根本的な変化が必要だろう。アジア型経営をかたくなに守る古い企業にとって変化は容易ではないが、新興企業は全く異なった経営スタイルを採用する機会に恵まれている。

 台湾積体電路製造(TSMC)は後者だった。87年の設立当初から米ハイテク企業のモデルを採用し、アジア型に固まることはなかった。

 TSMCはファウンドリー(受託生産)という独特な企業理念の上に設立され、この11年間で急速に発展を遂げた。今では世界で最も重要視される半導体企業の仲間入りをした。当初48%だった政府の出資比率は20%以下にまで低下している。

 TSMCはプロの経営者で運営されている。台湾証券取引所とニューヨーク証券取引所に上場し、取締役会は経営の大筋を決定するが、業務の運営管理はプロであるマネジャーにまかせている。会長兼CEO(最高経営責任者)である私を含めた経営陣は会社の株式をわずかしか保有していない。われわれは金融関連会社を持っておらず、多くの世界的な金融機関とビジネスをしている。

 当局への届け出や定例の投資家会議、タイムリーな記者発表を通じて投資家や一般大衆との接触を維持しており、経営は高い透明性を保っている。一方で従業員に株式を持たせることでインセンティブを与えた。これは台湾ではいち早く導入した仕組みで、米国のハイテク企業に匹敵するものといえる。

 TSMCはグローバルな企業だ。才能があれば出身国にかかわらず採用する。社内では英語を主要言語として用いている。

 半導体は世界的産業といえるが、競争とは本来、グローバルに展開されるものだ。この業界で成長して生き残るには世界標準に準拠した企業でなければならない。我々はTSMCをそうした企業にしようとしたし、その結果、成功したと信じている。

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