行天豊雄氏(国際通貨研究所理事長)
国際資金移動、対応策が必要

 アジア危機の背景や将来への影響は簡単に論ずることができない。

 今回の危機の引き金になったのは大量の短期資金が急速に流入し、急速に逆流したことだ。特に96年までは大量に流入した資金が97年には1000億ドルを超える規模で逆流し、危機につながった。

 ただ、背景も忘れてはならない。東南アジアは30年にわたって目覚ましい発展をとげ、「アジアの奇跡」と呼ばれた。ところが、この間に世界では非常に大きな変化が起きた。金融資本市場には全く国境がなくなり、情報技術の発達が市場の動きに大きな影響力を持つようになっている。

 率直に言って、東南アジアは「アジアの奇跡」に甘んじ、こうした変化に十分に対応する努力を怠ってきた。それが危機を各国に急速に伝染させる結果につながったと思う。

 重要なのは、国際的な資金移動をこれからどう考えるかということだ。制御されていない膨大な資本の動きにどう対応すればよいのか。また、為替相場の問題をどう考えるか。アジア危機はドル連動(ペッグ)相場制が招いた面があるが、中国には人民元のレートを守ってもらわなければならないという矛盾がある。

 金融システムの改革をどのように進めていくかも重要な問題だ。改革に伴って貸し渋りなどの悪影響も浮かび上がっている。危機の結果、各国の金融機関が外資の影響下に入るという事態も当然起こる。

 危機からの脱却の過程では、国民に失業の増大など厳しい困難をもたらさざるを得ない。直接の加害者でない国民が被害者になるのは不幸だ。社会的な補償をどうやって考えていくかも忘れてはならない課題である。

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