榊原英資氏(大蔵省財務官)
極端な悲観主義まん延 「円の国際化」へ市場整備

 アジア危機は今や新興経済の危機とも呼ばれているが、私は当初からグローバル化した資本主義の危機と考えるのが正しいと感じてきた。

 先進国も例外ではない。日本では極端な悲観主義がまん延している。他の主要7カ国ではバブルの要素が出てきた。グローバルな資本主義が極めて不安定になっている。

 不安定さをもたらしている要因の一つは、国境を超えて瞬時に移動する巨大な資本だ。もう一つは、情報革命の進展による国際金融市場のバーチャル化である。市場関係者は絶え間なく流れてくる情報にリアルタイムで対応するという状況が生まれている。

 アジアの場合、93-94年に大量の資本が金融や不動産セクターに流れ込んだ。これに対する適切なリスク管理ができなかったことが今回の危機の最大の原因だったと言える。

 しばしばアジア型経済システムが問題の根源といわれているが、私はそれが根本的な問題とは思っていない。むしろ構造問題に手を突っ込みすぎた結果、現在のシステムが壊れ、危機を深化させたのではないかとすら考えている。

 新しい国際金融システムをどのように作っていくか。我々はそういう議論を始めている。まず短期の資金移動を監視する仕組みが必要だ。資金の貸し手がどのような責任分担をすべきかも考えていかなければならない。

 私たちが表明しているのは「円の国際化」だ。基軸通貨であるドルにとって代わると考えているわけではないが、円の使い勝手をよくし、アジア地域で円が一定の役割を果たせるよう日本の市場を整備する。これが日本政府の取りうる行動だと思う。

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