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稲盛 和夫氏
京セラ名誉会長
 モノ作りに特化を

 アジア諸国は外国から技術や資金を導入するとともに、手先が器用で勤勉な労働力を生かし「世界の生産基地」として成長してきた。日本を先頭に、アジア各国が雁行(がんこう)型に発展し「アジアの奇跡」と言われた。そのアジアでなぜ、経済危機が起こったのか。

 アジアでは経済成長により国内賃金が上昇し、国民の生活水準も向上したが、輸出に振り向けていた製品が国内消費に回り、輸出競争力が減退してしまった。原材料の輸入が増える一方、輸出は減り、国際収支が悪化した。このため、ヘッジファンドの攻撃を受け、危機を招いてしまった。

 アジアの国や企業を再建するにはどうしたらよいか。まず、輸出競争力を取り戻すことが必要になる。国内賃金が上昇する中、輸出競争力を維持するには、労働生産性を高め続けなければならない。

 アジア企業は外国から資金を借りて発展してきたが、今回の短期資金流出で打撃を受けた。企業の成長は自己資金で賄うべきだ。そのために企業は高収益であり続けなければならない。

 京セラは自己資金による経営を貫き、連結売上高が7000億円強の現在、現預金は2000億円以上に達した。自己資金経営で成長することは不可能ではない。アジア企業も借金経営から自己資金経営に転換すべきだ。 アジア企業の間ではリストラが相次いでいるが、リストラ後に大切なのは従業員のモラールを維持することだ。経営トップが新たな目標を掲げ、従業員を鼓舞する必要がある。

 世界では情報通信関連のソフトが一大産業になりつつあるが、アジア諸国は得意とするモノ作りに特化すべきだ。

 アジアで情報通信のハード、ソフト産業を興すのは難しい。だが、通信事業については欧米企業が開発した機器やソフトを活用すれば、特別な技術がなくても参入できる。資金が足りなければ外資と組めば良い。通信事業で1社独占が続けば料金が下がらず、普及が十分に進まない恐れがある。第2、第3の事業者が出てくることが望ましい。

 日本企業にとっては、今がアジアに進出するチャンスと言える。各国が日本企業に進出を促しているうえ、現地通貨の下落で従来よりもはるかに低いコストで進出できるからだ。

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