日米の小売業の業績が回復している。2020年6~8月期は日米とも2四半期ぶりに最終黒字転換した。体力のある大手ほど新型コロナウイルスの影響からいち早く立ち直っている。郊外店舗やインターネット通販で「巣ごもり需要」を取り込んだ。政府の打ち出した経済対策も下支えするが、足元では消費に息切れ感も出ており、先行きに不透明感もでている。

「消費動向に応じて臨機応変に対応できた」と、しまむらの鈴木誠社長は手応えを語る。6~8月期の最終損益は117億円の黒字と、外出自粛で落ち込んだ3~5月期(12億円の赤字)から急回復した。40日程度で企画から販売までを完了させる短期生産体制によって、部屋着やスポーツウエアなどコロナ禍での売れ筋に応じた商品を投入した。

日米ともに急回復した(最終損益)

日経NEEDSとQUICK・ファクトセットで、日米で上場する小売業(190社)の20年6~8月期決算(米国企業は一部5~7月期を含む)を集計した。日本の125社の6~8月期の純利益は前年同期比6%減の1756億円だった。緊急事態宣言による店舗休業などがあった3~5月期は133億円の最終赤字だったが、前年同期近くまで持ち直している。

直近四半期の売上高1000億円以上の23社のうち16社が増益となるなど、大手の回復が目立つ。セブン&アイ・ホールディングスは百貨店が苦戦したが、6~8月期の純利益は585億円と前年同期比横ばいだった。「大型のパックアイスの販売が増えるなど、スーパーで買っていたものもコンビニで買う変化が起きている」(井阪隆一社長)と、生鮮品やワインなどの品ぞろえを強化し、コンビニの客数が回復した。

イオンは大型店の売り上げが戻り、赤字幅が大きく縮小した。様々な種類の製品が1店舗でそろい、感染リスクが低いと安心感につながっている。「コロナ禍で、ハレとケで言えば『ケ型』商品の需要が強い」(三宅香執行役)なか、日常的に使う商品を多くそろえた。「危機時には寡占化が進む」(ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長)面もある。

中堅以下はライフスタイルが変化したことへの対応が遅れている業態ほど苦戦している。新型コロナによって外出が減少したことで、スーツやおしゃれ着の需要は低迷している。

大丸や松坂屋を傘下に持つJ・フロントリテイリングは足元でも客数が前年同月比4~5割減が続く。好本達也社長は「一等地立地という従来の強みが揺らいでいる。ビジネスの根幹に関わる課題だ」と危機感をあらわにする。アパレルではサマンサタバサジャパンリミテッドが69億円の最終赤字だった。

米国の65社の純利益は195億ドル(約2兆500億円)と前年同期比で35%増えた。3~5月期は約4億ドルの最終赤字で、回復のペースは日本より速い。場合によっては失業前の賃金を上回る水準の失業給付や大人1人あたり1200ドルという政府からの給付金が消費を大きく押し上げた。

米国でも規模が利益につながっている。際立つのは郊外型で全国規模のネットワークを持つ業態の強さだ。売上高が100億ドル以上の6社はすべて大幅増益となった。

食品以外の日用品も幅広く取りそろえるウォルマート(前年同期比79%増の64億ドル)やコストコホールセール(27%増の13億ドル)、ホームセンター大手のホーム・デポ(25%増の43億ドル)などが好調。各社独自のネット通販も好調だった。芝刈り機や庭に置くテーブルセットなども売れた。白物家電やタブレットが好調で、家電量販のベストバイの純利益は4億3200万ドルと82%増えた。

売上高が10億ドル以下の36社に限ると過半の21社が減益となった。消費者は感染リスク軽減のため複数店舗での「買い回り」を避ける傾向を強めており、1カ所で買い物を済ませられる大型店に需要が流れがちだ。

足元では日米ともに消費に息切れ感がある。米商務省によると、米国の8月の個人所得は前月から2.7%減少した。政府の経済対策の効果が一巡したほか、追加経済対策の行方も不透明だ。日本も1人あたりの現金給与総額が8月まで5カ月連続で減るなど、雇用不安が強まっている。

楽天証券の窪田真之チーフ・ストラテジストは「日本は『Go To』事業の期間延長が検討されるなど、息の長い景気刺激策の効果で鈍いながらも回復が続く」と見る一方で「米国は感染拡大への危機感も強く、先行きの不透明感は日本より大きい」と指摘する。(松川文平、村上徒紀郎)