日本経済新聞社が中堅上場企業「NEXT1000」を対象に、ソフトウエアなど無形資産の占める割合が高いことを示す無形固定資産倍率をランキングしたところ、上位にはアプリ開発やオンライン学習などのIT(情報技術)企業が並んだ。デジタル投資を進めて成長を目指す攻めの姿勢が目立つ。1位は転職や不動産賃貸サイトを運営するキャリアインデックスだった。

無形固定資産倍率が高かった企業

商品企画、ウェブプロデューサー、医療事務――。キャリアインデックスの転職サイトには様々な職種の求人情報が並ぶ。その数は約68万件と国内最大規模だ。「マイナビ転職」や「エン転職」など提携する約80の転職サイトの入り口の役割を果たしている。

「コロナ禍で転職希望者が減るとみていたが、キャリアインデックスを通じた登録人数は計画通り。求職者を集める柱になっている」と大手転職サイト担当者は評価する。6月時点の会員登録者数は144万人とこの3年で6割増えた。

キャリアインデックスの単独成績

キャリアインデックスは単なるリンク集ではなく提携企業と情報システムを連携している。利用者は複数の転職サイトの求人情報をまとめて検索できるほか、応募や問い合わせもクリック1回で済む。転職サイトごとに名前や職歴などを入力する手間が省ける。情報登録した件数に応じて収益を得るビジネスモデルであり、アルバイトから専門職まで、1件当たりの単価は数千~数万円という。

同社はリクルートを経て、ヤフーでビジネス開発部長を務めた板倉広高社長が2005年に設立した。転職情報サイトを皮切りに、派遣やアルバイトなど様々な求人サイトを多角的に運営する。16年に東証マザーズに上場し、17年には東証1部に昇格した。

ただ転職サイトは競合が多く、足元の業績は伸び悩んでいる。20年3月期の売上高は23億円と2期連続で横ばい。株価も500円前後と18年12月につけた上場来高値(2186円)の4分の1の水準で推移する。立花証券の入沢健アナリストは「同様の転職サイトを運営し、収益を伸ばしている『じげん』と比べて投資家の失望が広がった」と分析する。

そこで転職サイトで培ったノウハウを不動産分野に横展開する。19年10月に人材サービスのリブセンスから賃貸物件の検索サイト「DOOR賃貸」の事業を買収。同じ賃貸情報サイト「キャッシュバック賃貸」をTypeBeeGroup(東京・世田谷)から取得した。他の賃貸情報サイトとシステムをつなげて、複数の賃貸住宅の検索や内覧申し込みなどを一括でできるようにする。

板倉社長は「人材市場は景気に連動するリスクが高い。コロナ禍でオフィス賃貸需要が落ち込んでいるが、賃貸住宅は安定しており、市場規模も大きい」と説明する。今後は引っ越しや物件の売却査定など関連サービスを展開する考えだ。

賃貸サイトの買収に伴い、20年3月期末時点の無形固定資産は18億円と19年3月期末から16億円以上増えた。有形固定資産はパソコンや机など約600万円にとどまり、無形固定資産倍率は294倍にのぼる。

祖業の人材サービスもテコ入れする。勤務地の細かい設定や見やすい画面デザインなど使い勝手を良くして、登録会員数の引き上げを目指す。人工知能(AI)を使って求職者に企業を提案するリコメンド機能の強化なども検討する。

新型コロナウイルス禍で国内の人材市場は一変した。7月の有効求人倍率は1・08倍とコロナ前の1月から0・41ポイント下がり6年3カ月ぶりの低水準となった。早期退職や派遣切りで求職者は増える一方、求人が減っている。転職サイトの経営悪化を受け、キャリアインデックスに対して「報酬単価の引き下げを求める企業が出てくる」(立花証券の入沢氏)。

板倉社長は「今後はこれまで培ってきたウェブマーケティングの知見を使って、不動産サイトの構築や提案機能の充実を進める」と話す。人材と不動産の両輪で無形固定資産をどう「稼ぐ手段」として活用するか、その手腕が問われている。

調査の概要 直近決算期の売上高が100億円以下の上場企業963社が対象(金融、決算期変更、TOKYO PRO Market上場企業を除く)。日経NEEDSのデータを基に、無形固定資産(のれんを除く)を有形固定資産で割った無形固定資産倍率が高い順にランキングした。無形固定資産を開示していない企業は省いた。データは9月3日時点。