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不正を防ぐには~職場のコンプライアンス(特別レポート)
麗澤大学大学院教授・高巌氏

麗澤大学大学院 高巌教授

コンプライアンスの重要さが叫ばれても相次ぐ企業の不祥事――。今回は日経BPのロングセラーDVD「不正を許さない職場づくり」(全2巻)の監修者である麗澤大学大学院の高巌教授にご登場いただく特別編です。職場の不正を生み出す要素とは何か、さらに発生を防ぐために企業ができることは何か、コロナ禍のなかで留意すべき点なども含めてお聞きしました。

1.やまない不正

Q:コンプライアンス体制の整備は、今や、企業の常識となっておりますが、それにもかかわらず、不祥事が続くのはなぜなのでしょうか。不祥事を起こす企業には、何が共通の内部管理上の欠陥でもあるのでしょうか。

共通の欠陥ですか。大変、難しい質問ですね。ではまず、昨年、起こった主な企業不祥事を4つあげておきましょう。かんぽ生命による保険の不適切な販売、レオパレス21による遮音性・耐火性基準などを満たさない物件の施工・販売、関西電力による原発立地自治体有力者からの金品受領、リクルートキャリアによる内定先企業への就活生辞退率データの販売、この4つがそれです。これらの不正事件は、それぞれ業種も内容も異なっており、そこには「共通の欠陥」などないかのように見えます。ただ「背後にある共通項を抽出せよ」と言われれば、その特定は可能でしょう。

2.「不正のトライアングル」に注目

Q:それは何ですか。

不祥事を起こした企業では、いずれもそれを許す3つの要素(動機、機会・環境、正当化)がすべて揃っていた、ということです。これは「不正のトライアングル」と呼ばれており、通常は、いずれか1つでも潰しておけば不正は起らない、と言われています。

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3.何が不正へと駆り立てるのか

Q:なるほど。3つの要素について少し説明してもらえませんか。

 はい。第1の「動機」ですが、それは、例えば、「ノルマを達成するため、コストを削減するため、納期を厳守するため、パワハラから逃れるため、周囲の期待に応えるため」などの、各行為者を内面より不正へと駆り立てる「動因」のことです。

4つの会社との関連で大雑把に整理すれば、不適切な保険販売は「ノルマを達成するため」、建築基準法違反による物件販売は「コストを削減するため、納期を厳守するため」、自治体有力者からの金品受領は「会社の利益を守るため」、辞退率の推計・提供は「社内の期待に応えるため」、各自が動いたということです。

関西電力の事例について、若干、付け加えておきますが、同社の幹部は、何度か返却も試みたそうです。しかし、結局、それも諦め、受領することになったと聞きます。その際の理由づけとして、「有力者の怒りを買うおそれがあった」「有力者より罵倒を受けた」「返却した数日後に再度高額な金品が送られてきた」などがあげられていますが、これらは、結局「会社の利益を守るため」という1つの「動機」に集約されることになります。

4.曖昧なルールには、リスクが潜む

 第2の「機会・環境」ですが、これは「不正が発見される確率」あるいは「不正を抑制する要因」と言えばよいでしょうか。例えば、規程の整備や管理体制といった内部統制が整っていれば、関連法規や所管庁検査といった規制環境が厳しければ、たとえ行為者が「動因」に駆られたとしても、その実行を控えることになるでしょう。逆を言えば、形骸化した管理体制しかなければ、不正は起こるということです。

分かりやすい例は、リクルートキャリアによる事件でしょう。同社の個人情報管理体制にも問題はあったかと思いますが、そもそも、個人データ利活用に関する法規制が曖昧なものでした(依然、明確ではありませんが)。またリクナビと就活生の間で交わされた利用規約についても、表現は曖昧で、リクナビ側が都合の良いように解釈できるものでした。さらに言えば、就活生には、リクナビ側による規約遵守の状況をチェックする術もありませんでした。つまり、リクルートキャリアは、不正に走って当然というような環境下に置かれていたわけです。

5.上司の言葉が「正当化」を与えることに

Q:なるほど。ただ、先ほどの説明ですと、これら2つの要素が揃ったとしても、3番目の要素を潰せば、不正は防げるということですよね。

その通りです。第3の「正当化」という要素がなければ、「動機」と「機会」が揃っても大きな問題にまでは発展しません。それは、不正に走ることを自身に納得させる「言い訳」のようなものです。例えば、達成困難な目標であるにもかかわらず、上司が、人事権の行使を匂わせながら、「とにかく、結果を出せ」と迫れば、これが「正当化」に繋がるわけです。

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ちなみに、かんぽ生命の場合、「高齢者と契約を交わす際、家族同席であること、それが難しければ、上司同行とすること」という営業ルールがありました。皮肉なことに、このルールが「上司同行の形を取れば何でもOK」と都合よく解釈され、現場の不適切営業を助長・正当化することになってしまいました。関電の20人を超える幹部が金品を受領していた事件でも、同じような正当化があったはずです。おそらく、ほとんどの幹部は「他の幹部もやっていた」「前任者たちもやってきた」と言い聞かせ、自らの行動を正当化したのでしょう。

6.「会社のための不正」は会社のためにならない

Q:昨年、起こった企業不祥事の背景に、3つの要素が揃っていたということはよく分かりました。では、結果論ではなく、どうすれば、企業は、内部者による不正を防ぐことができるのでしょうか。

これにつきましても「動機」「機会・環境」「正当化」のそれぞれについて、主な取り組みをあげておきましょう。

まず「動機」ですが、出発点として、コンプライアンス上の「基本姿勢」を明確にしておく必要があります。例えば「『会社のため』の不正は会社のためにならず」「『不正に得た利益』は絶対に評価されない」などの基本姿勢を、年頭の辞、ミッション、行動指針、統合報告書、社内報、コンプライアンス・ニュースなど様々な機会や媒体を通じて、そしてトップや幹部の日常的な言動を通して示す必要があります。

さらに重要なことですが、仮に基本姿勢を無視し、利益のみを重視する者、不正に加担する者が出れば、これに信賞必罰で臨まなければなりません。「『自分の利益』ではなく『会社の利益』を考えてやった」などという理屈がもはや通用しないことを、組織として明示する必要があるわけです。

7.風通しの良い職場をつくるには

Q:「基本姿勢」を明示することも、また信賞必罰で臨むことも、その通りでしょうが、会社の本気度を社員に伝えるのは、決して容易でないように思われますが。

おっしゃる通りです。それだけに、第2の要素である「不正を許さない環境」を作る必要があるわけです。難しく聞こえるかもしれませんが、その狙いは「風通しの良い職場」「コミュニケーションが良好な関係」を築くことにあります。この点を踏まえておけば、各社に合った取り組みを展開できるはずです。いくつか例をあげておきましょう。

第1は「ガバナンス体制の見直し」「コンプライアンス体制の強化」です。当然、こうした措置は既に多くの会社でとられておりますが、ここでは、それをもってしても「風通し」が良くならなければ、基本に戻りやり直す必要性を強調しておきます。例えば、縦横のコミュニケーションが改善されなければ、指名委員会の機能を実質化させること、執行役員の選任基準を抜本的に見直すこと、社内で最も信頼される人物をコンプライアンス部の責任者に登用すること、互いを「役職」でなく「さん付け」で呼ぶことなど、様々な措置を考えてみてください。

Q:確かに、多くの会社では、指名委員会を設置していますが、依然としてほとんどが会社側の意向通りにしか動いていない、執行役員の選任も、結局は、担当事業の売上や利益の大小でもって決まる、などと言われていますからね。

その通り。ですから、モノを言いやすい職場となっているかなどの変化を見ながら、自社にあった措置を講ずるのです。またコロナ禍において、リモートを用いたコミュニケーションも増えていることでしょうから、率直な意見交換ができるオンライン会議になっているか、どこかのタイミングで確認し、改善すべき点があれば、躊躇せず、改めていくべきでしょう。

第2は「コンプライアンス研修」です。ここでも狙いは「風通しを良くすること」にあるわけですから、言い方を換えれば「働き甲斐ある職場を作ること」にあるわけですから、上意下達の一方的な研修とならないよう、工夫する必要があります。現在、リモート研修のウェートが高まっていると思われますが、幸か不幸か、Zoomなどのツールを活用すれば、講義を聴講した後、少人数グループに分け、理解を深めるための議論も行えるようになっています。ブレークアウトルームという機能です。各グループのまとめ役を決めておけば、成果もあがりますので、試してみてください。

第3は「人事ローテーション」です。職場内に親しい関係ができれば、職場の風通しはよくなりますが、他方、特定の者同士の緊密な関係が築かれれば、今度は、これが風通しを悪くするかもしれません。また、特定の業務が特定の人物に偏れば、業務の効率は上がるでしょうが、逆に風通しは悪化する可能性があります。ですから、一定の合理的な期間を設け、企業として人事異動を進める必要があります。

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最後は「監査部門のキャパシティ・ビルディング」です。人事異動により、多くの「不正の芽」は摘まれるでしょうが、いかなる組織にあっても、ローテーションが困難な業務や専門部署は残るものです。これに関し、企業が取り得る措置は2つです。第1は、異動困難な業務や部署に対し、「業務フローの作成・作業プロセスのマニュアル化」を義務づけることです。つまり、仕事の流れを「見える化」することです。これにより、監査スタッフによる監査精度は確実に改善されます。第2は、監査スタッフの監査能力を高めることです。これには、外部研修などの費用が膨らむことになりますので、それに見合う予算措置を講ずる必要があります。

これらの取り組みは、いずれも「風通しの良い職場」づくりに役立つはずです。

8.「善良な第三者の視点」に立って考えてみる

Q:いつでも、どこでも、誰かが見ていると、幹部や社員、皆が感ずるようになれば、つまり、職場の風通しが良くなれば、不正も必然的に無くなっていくということですね。

はい。ただ、これらの試みも、知らず知らずのうちに形骸化するという可能性は残ります。また、現在のようなコロナ禍にあっては、どうしても互いの行動を確認し合う機会が物理的に減少してきますので、コンプライアンス意識の希薄化は避けられません。ですから、最後の「正当化」について、企業は知恵を絞らなければなりません。何しろ、これが最後の砦となるわけですから。

例えば、関電の幹部が「他の幹部もやっていた」「前任者たちもやってきた」と自身に言い聞かせ、金品の受領を正当化した可能性があると述べた。これが最も大きな正当化であったと仮定しましょう。この状況で、もし会社側より、幹部に対し「日常的に『善良な第三者の視点』から自身の行動を見直すこと」を求める指針が示され、またそれが彼らの間で定着していたとすれば、どうなっていたでしょうか。おそらく、「他の幹部もやっていた」などという正当化は起こらなかったはずです。仮に金品を受け取らざるを得なかったとしても、これをそのまま、自身の手の届くところには留め置かなかったはずです。

ここに言う「善良な第三者の視点」とは、例えば、家族、子供、マスコミなどの視点を指します。若干、分かりにくいと思いますので、多くの企業が役員・社員に向けて配布している「倫理カード」を例にあげて説明しておきましょう。そのカードでは、携行者に対し「あなたは、それをあなたの家族に見せられますか、子供に堂々と語れますか、報道されても恥じるところはありませんか」などと、自問するよう求めています。つまり、自身による「正当化」を一旦中断させ、これを中立的な観点から再検討するよう求めているわけです。

仮に関電にも、こうしたカードが導入されていれば、そして定着していれば、幹部らも、苦しみはするものの、容易に「提供された金品は懐に入れてはならない」との答えを出していたはずです。そして、その「良心の声」に従い、「受領せざるを得なかった金品」を、慈善団体などへの寄附という形で「社会還元」することを考え得たはずです。

もちろん、寄附は最善策ではありませんが、返却が身の危険を感ずるほど困難な状況であったとすれば、社会への還元は、少なくとも、同社に対する批判を、また同社幹部に対する不信を、僅かなりとも緩めることができたはずです。悲しいかな、最後の砦が整っていなかったため、関電では、そうした初歩の初歩さえ、誰も考え及ばなかったわけです。

9.倫理と利益が相反する時

 Q:なるほど。分かりました。

 確かに、ここに見てきた4つの会社と同様、現在でも、多くの企業が、また多くの社員が「倫理と利益が相矛盾する場面では、いずれを優先すべきか」で悩み苦しんでいるでしょう。しかし、良識ある経営者は、迷うことなく「倫理を優先せよ」と訴えており、そこにはブレはありません。ですから、会社と社員の生活を守るため、社員は「ノー」と言う勇気を持たなければなりませんし、また会社もそうした社員を守る確実な仕組みを構築しなければなりません。ここにあげた実践例が僅かでも役に立てば、幸いです。

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