SF映画のスタートレックをご存じでしょうか。宇宙を舞台にした様々な冒険が語られますが、その中に「ホロデッキ」という装置が出てきます。単に立体映像を映すだけではないシミュレーション装置です。五感を通じて現実に起こっているかのような感覚で、登場する人や環境とふれあえるのです。こんな装置があれば、ドラマの中に入り込んで自分が主人公として疑似体験したり、戦闘の模擬訓練に使ったりすることも可能になります。
今回の記事で紹介した、東京大学の舘研究室では、ホロデッキのような装置を目指して開発を進めているそうです。とりあえずは、実際に会っているかのような立体感のある映像を作り出すこと。現在のテレビ電話などでは、あくまで機械を介しているという意識から離れることが難しいのですが、これを極限まで実像に近い状態まで近づければ、見ているものはバーチャルな像であっても、目の前にいるのと同じことになります。超能力などとしてしか語られなかったテレポーテーションが実現するのです。遠くの人と人を結びつけ、時間を飛び越える能力を人間が持つようになるのです。電話よりもっと大きな影響を与える発明になりそうです。
目の前にいる存在感を表すには、においも重要です。東京工科大学の松下温教授(慶応大客員教授)はバーチャル空間に現実感を与えるためににおいの研究を始めました。目の前にあるにおいをセンサーなどで感じ取ってそれを遠隔地で再現するという、リアルタイムでの香り再生は、香りの分析に時間がかかりすぎるので現状では無理だということです。ただ、場面を設定して香りを再現したり、あらかじめ用意した映像に対応した香りを再現発生させたりすることは、現実的になってきました。
現在は果物の香りならほとんどが再生できます。大きな注射器のようなものに香りのもとを入れ、混ぜ合わせながら吹き出すことで、様々な香りをつくり上げる「香り発生器」もできています。今後は、プリンターのインクジェットのような小さなものに何十種類もの香りのもとをつめ、吹き出せるようになれば、利便性は格段にあがります。いろいろな工夫を重ねている最中だと松下教授は話しています。
NTTは先ごろ、ブロードバンド構想の中で五感をつかったコミュニケーションの実現を目指す10年計画を発表しました。話す、聞く、見るに加えて香りをかぐ、触れるまで取り入れるのです。夢のような話を実現する努力が、大きなビジネスに結びつく可能性を秘めています。