■ 審査を終えて

■ 日経アジア賞とは

■ 審査委員会


審査を終えて

審査委員長 平岩外四

 アジアが通貨・金融危機に見舞われて1年近くたった。こうした中で今回は沈滞ムードを吹き飛ばし、新たな活力の源となるような元気のいい受賞者を選びたいとの考えで審査委員全員が一致した。
 経済発展部門の倪潤峰(ニイ・ルンフォン)氏は10年前、軍需工場を民需転換し、カラーテレビの生産を始めた。広告宣伝やマーケティングに力を入れ、この分野で中国の最大手企業に育て上げた。
 私どもは、倪氏が中国が市場経済化する上で最大の課題とされる国有企業改革をいち早く成功させた点を評価した。
 技術開発部門のマレーシアゴム研究所は天然ゴムの品種改良、厳しい品質基準づくりなどにより、マレーシアをはじめタイ、インドネシアなど世界の天然ゴム生産国での生産拡大を技術面から支えた。
 世界の合成ゴム生産量は過去10年ほぼ横ばいだが、この間天然ゴム生産は5割近く増えた。これはゴム研究所の成果に負うところが大きい。
 文化部門のキム・ジョンオク氏は、韓国の演劇を欧米に紹介したり、日本はもちろん世界との交流を続けながら、アジアの伝統文化に裏打ちされた普遍的な舞台芸術の創造に取り組んだ。
 1995年、アジア出身者としては初めて国際演劇協会(本部パリ)の会長に就任したことは、同氏の業績が世界の演劇界に認められたことの証(あかし)である。
 第3回アジア賞には3部門合わせて14カ国から38件の候補が新たに集まった。これに昨年までの候補者のうち受賞に至らなかった80件を加え部門別に審査した。
 今回推薦を受けた候補者の中には、受賞者以外にもアジアの活力回復につながるエネルギーを感じさせる人が何人かいた。
 質素さを重んじる独自の経営で、特定の合成樹脂分野で世界一のメーカーを育てた華人経営者、パソコン業界で世界標準となる音声技術を開発したシンガポールのベンチャー企業家、多民族間の理解をテーマに独自の演劇活動や評論をしているマレーシアの芸術監督などだ。
 これらの方々は、現時点での活力や活動領域の広がりの度合いなどで受賞者に一歩譲ったに過ぎない。
 今回、経済発展部門では初めて企業経営者を受賞者とした。技術開発、文化の両部門も、第1回、第2回とは活動分野の異なる方を意識的に選んだ。
 今後も、地域の、また世界の安定と繁栄に貢献したアジアの人々に焦点を合わせながら、多彩な顔触れの受賞者を選ぶべく審査を進めたい。


日経アジア賞とは
 日経アジア賞は、アジアの発展に功績のあった個人または団体を毎年、経済発展、技術開発、文化の3分野で各1人(団体)ずつ選び表彰する。受賞者にはそれぞれ賞状と副賞賞金300万円を贈る。選考は内外の学識経験者や報道機関などが推薦した候補を、まず部門別の審査委員会で評価、各部門ごとに受賞候補者と次点候補者を選ぶ。この結果を全審査委員で構成する最終委員会で審議し、受賞者を決定する。自薦は認めていない。いずれの分野も(1)アジアの人々の生活水準の向上や文化への貢献度(2)世界的に見た活動の独自性――などを総合評価する。原則として北東アジア、東南アジア、インド亜大陸までの幅広い地域の人々を審査の対象とする。日本人は授賞対象から外している。

過去2回の受賞者は、次の通り(役職は受賞当時、カッコ内は受賞理由)。
 第1回=ウィジョヨ・ニティサストロ・インドネシア国家経済顧問(市場経済原理に基づく経済政策を立案、実施)▽袁隆平・中国・湖南雑交水稲研究中心主任(高収量のハイブリッド米を開発し食糧を増産)▽ダラー・カンラヤ・ラオス情報文化省文芸文化局副局長(貝葉文献など歴史、文化遺産の発掘、保存)

 第2回=マンモハン・シン・元インド蔵相(経済改革を推進し経済発展の基盤を構築)▽崔亨燮(チェ・ヒョンソプ)韓国科学技術団体総連合会会長(人づくりを重視した科学技術政策を実行)▽ホセ・マセダ・フィリピン大学名誉教授(アジア音楽特有の構造を解明)


審査委員会
 <審査委員長>
▽平岩外四・経団連名誉会長

 <審査委員・経済発展部門>
▽鳥居泰彦・慶応義塾塾長
▽秋山富一・住友商事相談役
▽山田勝久・アジア経済研究所長
▽国広道彦・元中国大使
▽西川潤・早稲田大学教授

 <同・技術開発部門>
▽吉川弘之・日本学術会議会長
▽内田盛也・日本工学会副会長
▽水野博之・松下電器産業顧問
▽川那部浩哉・琵琶湖博物館館長
▽西野文雄・政策研究大学院大学教授

 <同・文化部門>
▽河竹登志夫・早稲田大学名誉教授
▽陳舜臣・作家
▽石井米雄・神田外語大学学長
▽藤井知昭・中部高等学術研究所副所長
▽村上陽一郎・国際基督教大学教授

 <同>
▽新井淳一・日本経済新聞社常務取締役



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