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2000年 地球人は
第4部 21世紀への進化

「日本経済新聞 1面企画」


(8)牛とポリ袋

 インドのデリー首都圏議会は7月にも、厚さ0.02ミリ以下のポリ袋を市内で製造・使用することを禁ずる条例を可決する。世界でも珍しいポリ袋追放条例。それを生むひとつの原動力になったのは、昨年9月の小中学生のデモだった。

対外開放の象徴

 「牛を殺さないで。もうポリ袋を使うのはやめましょう」。ニューデリー市内の中学3年生のモーシュミ・パンダさん(14)は教師や同級生約60人と学校の周辺を回って訴えた。「牛は神様です。神様を殺すようなことはやめましょう」

 1990年代、インド経済が対外開放され海外の商品が入ってくると市民生活も様変わりした。暮らしのグローバル化の象徴がポリ袋。ぬれると破れる紙袋やごわごわした麻袋に、あっという間にとって代わった。

 ところが、間もなく市民にショックを与える問題が持ち上がる。ヒンズー教の聖なる動物である牛があちこちでゴミを入れたポリ袋を食べ、消化できずにバタバタ倒れだしたのだ。死んだ牛は多い日には100頭近く。1頭の胃から20キロものポリ袋が出てきたこともあった。

 環境問題も深刻だった。「ポリ袋は下水溝を詰まらせ、土に埋めても分解されない」と頭を痛めたデリー首都圏環境局は、市民団体や学校と組んでポリ袋追放運動に乗り出す。母親から「牛が死ぬのはポリ袋のせい」と聞いたモーシュミさんもデモに加わることを決めた。

 彼女たちの運動はホテルやレストランも動かす。「親愛なるこどもたちへ。当ホテルは今後、ポリ袋を一切使わないと宣言します」。市内の最高級ホテルからこんな手紙も届いた。

 コンピューターソフト産業を核に情報技術(IT)立国を目指すインド。グローバル化の流れに乗って国を富ませるという方向は揺るぎないが、ニューデリー市民は固有の文化にも改めて価値を見いだした。

なまりを守る

 「こんばんは、6時のヌース(ニュース)です」

 英国放送協会(BBC)の夕方の看板番組は、いつものようにヒュー・エドワーズ氏(38)の強烈なウェールズなまりで始まった。バラエティー番組ではない。日本ならNHKの夜7時のニュースにあたる番組である。最近の視聴率は38%。視聴者のニュース離れが進むなか、この1年で4%も上がった。

 BBCは長年、「RP」と呼ばれる上流階級英語を放送で使ってきた。最近はスコットランドなまりやリバプールなまりも流れる。「私のなまりでBBCのイメージが変わった」。エドワーズ氏はいう。

 いまや言語の国際標準となった英語。インターネットの普及もあり、世界共通のコミュニケーションの「道具」としての性格を強めている。それと歩調を合わせるように英語の本家たる英国では、「英語らしい英語」として地域文化を色濃く映した方言も再評価され始めた。

 「地域」も大切にしたいというひとびとは、マネーの世界にもいた。

 カナダでこの2月に持ち上がったメディア企業同士のM&A(合併・買収)。英語圏のオンタリオ州ロジャーズ・コミュニケーションズがフランス語圏のケベック州ビデオトロン・グループを買収するという、この計画に、3月、ビデオトロン第2位の大株主ケベック預金投資基金が横やりを入れた。

買収に横やり

 「ビデオトロンには同じケベック州の印刷・出版会社ケベコールも関心を持っている。こちらと手を組むべきだ」。投資基金の会長兼最高経営責任者(CEO)、ジャンクロード・スクレール氏(53)はそう主張して対抗案を示す。基金とケベコールがケベック企業連合を結成、ビデオトロンを買収するという計画だった。

 大型M&Aが相次ぐ世界のメディア業界。言語や文化の壁を越えて手を結ばないと生き残れないだけに、投資基金の動きには「ケベック至上主義」との批判も出た。「100パーセント投資家としての判断だ」と防戦するスクレール氏。「だが、われわれは地域経済にも気を使わなければならない」と複雑な胸の内ものぞかせた。そして、ビデオトロン問題はこう着状態に陥った。

 世界を一体化するグローバル化。ヒト、モノ、カネの流れを阻む古い慣行を壊し、生活水準を高める半面、多様な地域文化を押し流し、社会をやせて貧相なものにしてしまう懸念もある。ポリ袋追放、ウェールズなまり、ケベック企業連合――どれも、この矛盾になんとか折り合いをつけようという試みである。玉石ともに砕くグローバル化から、多彩に光る玉を包み込む懐の深いグローバル化へ。地球人は重い課題を背負った。

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