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2000年 地球人は
第4部 21世紀への進化

「日本経済新聞 1面企画」


(9)多重言語小説

 「世界で最も難解な小説を書く」といわれる作家がカリブ海に浮かぶフランス海外県マルティニクにいる。パトリック・シャモワゾー氏(46)。フランスで最高の権威を持つ文学賞であるゴンクール賞を黒人として初めて受賞したクレオール文学の旗手だ。

 独特の文体駆使

 クレオール語とは、カリブ固有の言葉と西欧やアフリカの言葉が混成してできた言語。同氏は仏語の文章にクレオール語を埋め込み、さらにほかの言語もちりばめる多重言語の文体を駆使し、異文化を融合する新しい文学の境地を切り開いた。

 受賞作「テキサコ」は実在するカリブの貧民街の歴史をつづった物語。すべて日本語に置き換えても「蛾(が)がランプに落ちたときあの女の鼻面も焼けていた栄光の土曜日」「ラム酒の度数が赤ら顔の上に昇りつめてゆく60度、55度、50度の路地」(星埜守之訳)といったユニークな表現が並ぶ。

 「私は複数の言葉でしか書けない世界を書きたい。できれば世界のすべての言語を使いたいという欲求に駆られる」。マルティニクの保護監察官の肩書も持つシャモワゾー氏は、政庁所在地フォールドフランスの少年裁判所の一室で自らの文学観を語った。

 「長い間我々はクレオール語を仏語に対抗させようとしてきた。だが、どちらかひとつでなく、異なる文化や人種とその想像力を背景に紡いだ言葉で新しい世界観を示したい」

 「みかけは黒人だが、私の心の中はモザイク模様だ。アイデンティティーとは自らを定義すると同時に他人と関連づけることであり、他人から切り離すものではない。世界はどんどん複雑な構造になっており、作家を国や言語や肌の色でくくった大選集は意味をなくすだろう」

 難解なため読者は限られ、手法に追随する文学者もまだ少ない。だが、異文化の混交で新たな世界観を提示する試みは、外国語に保守的とされるフランスでも高い評価を得ている。

 2ヵ国語で授業

 パレスチナ問題を抱えるイスラエル。この国の片隅で、歴史的な民族対立を異なる文化の融合という発想で前向きな力に変える試みが進んでいた。

 「この絵をもとにお話を作ってください」「はーい」。ユダヤ人の先生がヘブライ語で話しかけると、パレスチナ人の生徒が元気にアラビア語で応じた。

 北部ガリラヤ地方ミスガブに2年前開校した「ユダヤ・アラブ協力のためのガリラヤ校」。教室ではユダヤ人とパレスチナ人の小学生十数人ずつが机に向かっていた。教師はひとつの授業にユダヤ人とパレスチナ人の2人、使う言葉はヘブライ語、アラビア語ごちゃまぜだ。

 宗教の時間にはユダヤ教、イスラム教の両方を教える。「信仰そのものでなく、文化的な面から教えるよう気を配っています」とハニヤ・ジャバリ校長(30)は力説する。

 教えるのが難しい問題もある。5月8,9両日のイスラエル戦没者記念日と10日の建国記念日。ユダヤ人にとっては民族意識が高揚する日だが、土地を奪われたパレスチナ人の側は民族の悲劇を象徴する日と受け止めている。一つの立場では説明できず、昨年は民族別に授業を開いた。

 価値観強制せず

 今年は親どうしの30時間近くに及ぶ激論の末、「現実を学ばせるべきだ」という結論に至り、全生徒に双方の立場を教えた。そのうえで15分間クラスを分け、ユダヤ人の生徒だけが戦没者に黙とうをささげた。

 同じパレスチナ人でもイスラエル国籍を持たない自治区の住民は入学できないといった限界もあるが、理念に共鳴する親は多く、入学希望者は定員の倍。学校を運営する「イスラエル2カ国語教育センター」は近くエルサレムとテルアビブ郊外にも同様の小学校を開く予定だ。

 もちろん、こんな試みは異民族の共存と融合という理想に向けた小さな芽に過ぎない。憎しみが憎しみを呼ぶ長年の連鎖を断ち切るのは容易でなく、パレスチナ自治区では流血の事件も絶えない。ヒトや文化が簡単に国境を超えるグローバル化の加速は、世界各地で新たな紛争を引き起こす危険性もはらむ。

 それでも、自分の価値観を押しつけず前向きな融合を進化ととらえる発想を持てば、安定し精神的に豊かな地球社会を築くことができる――。カリブ海のクレオール文学者とイスラエルの2カ国語学校は、そんな21世紀に向けたメッセージを発信している。

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