主要
政治・経済
国際
マーケット
産業・流通
店頭・VB
社会
スポーツ
列島ビジネス
社説・春秋
トップ人事
おくやみ
新製品
自動車
発表資料
経済指標
日経調査
●日経プラス1
●日経産業新聞
●日経流通新聞

きょうのクイズ
ザ・ランキング
出張・旅行予約
競馬
ゴルフ
進学ナビ
転職ナビ
2000年 地球人は
第4部 21世紀への進化

「日本経済新聞 1面企画」


(7)ふるさと探し

 本選挙がこの7月に迫ったメキシコ大統領選で、例のない制度が採用された。野党が大統領候補を決めるために昨秋実施した予備選で、メキシコ系だが米国籍を持つれっきとした米国人たちが国外から投票したのだ。「われわれの運動もやっと一歩前進した」。米ロサンゼルス近郊に住むフェリペ・アギレ氏(48)は高揚した声で言った。

 2世にも選挙権

 海外に在住する自国民に選挙権を与える国は多い。だが、この予備選では在米メキシコ国民はもちろん、米国に移住して米墨の二重国籍を持つ人、さらに米国生まれの2世でメキシコへ行ったことのない人にまで選挙権を与えた。米国に住むこれらの人々は子供も含め推定700万―1000万人。本国の人口が9000万人だから予備選の結果にも大きな影響を与えたという。

 36年前に国を離れ自ら二重国籍を持つアギレ氏が、在外者の選挙権獲得を目指して運動を始めたのは3年前。「メキシコ憲法をよく読むと、他国に移住した人やその子孫にも選挙権を認めていることがわかる」。1999年6月にはメキシコの3大政党から「2000年の大統領選で在外者投票を認める」という合意書を引き出した。予備選はその成果だった。

 結局、今回は法律の整備が遅れたため、本選挙での在外者投票は見送られた。だが、アギレ氏らメキシコ系米国人たちはあきらめない。この5月初めには大統領候補の1人をロサンゼルスに招き、集会を開いて在外者投票の本格実施を訴えた。

 マリア・ヒノホサさん(50)が会場で話してくれた。「米国市民として米国の政治にかかわることもできるけれど、私にはメキシコに18人の兄弟がいる。ふるさとは別にあるの。ふるさとのために自分の一票を生かしたいのよ」。メキシコへの愛国心からでも、メキシコ政府に自分のために何かしてもらいたいというのでもない。故郷とつながる何かが欲しいという、素朴で切実な訴えだった。

 電脳空間に「家」

 国を捨てても「根なし草」にならないための手がかりを選挙権に求めたメキシコ系米国人。これに対し、ユーゴスラビア紛争を逃れオランダに移住したゾーラン・バシック氏(36)はネット上の電脳(サイバー)空間に“ふるさと”をつくった。ホームページ「サイバーユーゴスラビア」である。

 99年9月、サイバーユーゴを立ち上げる際、バシック氏はそのページにこう書いた。「91年、われわれはアトランティス(太古に水没したという伝説の大陸)の民になった。いまからサイバーユーゴが浮遊する魂の新しい家だ」。クロアチアとスロベニアが分離・独立を宣言した91年に妻を残して国を逃れ、家族も生きる基盤も失って自分自身が「浮遊する魂」になったバシック氏。その後8年の心の遍歴も、そこには投影されていた。

 「名前は分裂する前の旧ユーゴの国名からとった。旧ユーゴ国家を再興するためではなく、民族というものを意識しないでも生きられる社会を取り戻したいという願いをこめたんだ」

 反響は大きかった。紛争を逃れて世界に散ったクロアチア人やセルビア人らから電子メールが続々届いた。「民族を超え、ネット上に新しい社会をつくろう」。そして、サイバーユーゴはメンバー1万人の仮想コミュニティーに育つ。メンバーは毎日のようにネット上で未来を語り合っている。

 「非合理」の世界

 コンピューターソフト会社を経営するバシック氏は欧州中を忙しく飛び回る。「手間のかかるサイバーユーゴの運営を続けるのはなぜかって? 人間には理屈では割り切れない非合理なものも必要なんだよ」

 カナダ・ケベック州政府に勤める三重国籍者アレクサンドル・デブス氏(30)も、ときどき“合理的でないもの”にくるまれたくなる。

 両親から引き継いだエジプト国籍とレバノン国籍、生活の基盤を置くカナダの国籍。デブス氏にとっては、どれも世界を回るための道具でしかない。3つもの国の国民になってみると、「国」とか「国民」というものの重みもあまり感じなくなった。「でも、1年に一度は生まれ育った中東に帰りたくてたまらなくなる。何というか、心が安らぐんだ」。この夏も両親が住むレバノンへ行く予定だ。

 世界を回遊する自由な地球人にとって、もはや国は帰属意識の対象ではない。だが、彼らがその飛翔(ひしょう)力を保つには、国にかわって帰る場所を見つけなければならない。しかも、その場所は一人ひとり違う。ヒトが国境を超えて大量に移動する21世紀社会。それぞれの「ふるさと探しの旅」も始まる。

「2000年 地球人は」トップページへ戻る

NIKKEI NETの最新情報は画面を更新してご利用ください。
掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権は日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。
このホームページに対するご意見・ご感想は webmaster@nikkei.co.jpまでお願いします。
NIKKEI NETはインターネットエクスプローラー4.0、Netscape4.0以上でご覧いただけます。

Copyright 2000 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.