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2000年 地球人は
第4部 21世紀への進化

「日本経済新聞 1面企画」


(6)高速社会の指南役

 「えっ? 婚約者と別れろというのですか」。ニューヨークでホームページなどを企画製作する個人事務所を運営するアレキサンドリア・ブラウンさん(28)は、雇ったばかりの「パーソナル(個人)コーチ」のアドバイスに耳を疑った。

 仕事の能率向上

 「個人コーチ」とはスポーツ選手のコーチのように、仕事をうまく進める方法を一対一で授ける指南役。米国で近年、急速に利用者が増えている。

 「あなたの婚約者は仕事への情熱が足りない。人生の目的が違い過ぎる」。結婚相手にまで口を出すコーチにブラウンさんは当初戸惑い、反発も感じた。

 しかし、変化のスピードを上げるグローバル社会で仕事に生きがいを見いだしたい、とブラウンさんは考えている。「確かに彼と結婚してもお互いのためにならず、高速で動く社会にもついていけない」。そう考えたとき気持ちは固まった。

 コーチの指示には一見「高速社会」に逆行するものも多かった。嫌な仕事は引き受けるな。仕事の時間を短くせよ。毎週ジムに通いなさい――。しゃにむに働くブラウンさんに、コーチは自分の時間や生活も大切にするよう促した。その結果仕事の能率は上がり、高速化に乗るコツをつかむことができた。

 コーチ料は月700ドル。「個人事務所だから会社の先輩のような相談相手がいない。コーチなしでは成功できなかったかもしれないと思えば高くないわ」

 彼女のコーチを務めるタレーン・ミデアナーさん(34)は米国、欧州など世界各地に住む18人と毎週電話で話している。“生徒”の職業は金融、ファッション関係などさまざま。それぞれ目標を立てさせ、問題があれば対策をアドバイスする。

 「個人コーチ」は従来からあるセラピスト(療法士)などとどこが違うのか。「心の傷のように過去の体験から生じる問題を扱うのがセラピスト。コーチは傷を治すのでなく前に進む方法をアドバイスするのです」

 24時間回り続けるグローバル経済。ひとたび歯車がかみ合わなくなれば成功はおぼつかない。的確にスピードに乗る方法を教示する指南役の人気の高さを映し、個人や企業向けのコーチの数は国際コーチ連盟(本部ワシントン)への登録者だけで2000人を超えている。

 ストレスを追放

 昼夜の隔てなくビジネスを回す方法を企業向けに処方する会社が米マサチューセッツ州にあった。サーカディアン・テクノロジーズ。社長のマーチン・ムーアイド氏(54)は人間の体内時計の共同発見者でもある。

 ある時、米自動車用ガラス製造会社から依頼が来た。「最新鋭の工場なのに生産性が低くて困っています」

 この工場では2日間の休日をはさんで3日ずつ、昼夜が逆転する勤務シフトを取っていた。「全員一律でなく個人差を反映できるシフトに変えましょう」

 新しいシフトでは、各自の希望に基づき日勤だけのチームと夜勤専門のチームの2つに分けた。体質にあった勤務時間を選ぶことで従業員のストレスは軽減し、24時間、高い生産性を保てるようになった。

 高速経済から振り落とされないための心のよりどころを、コーチなどに頼らず自分を見つめ直すことで手にした人もいる。

 聖典と向き合う

 米カリフォルニア州の遺伝子治療関連会社バイオ・ジェネックス。会長のクリス・カーラ氏(55)は5年前、突然3カ月間の休暇を宣言した。

 インドから移住して約30年。「何も考えず休みなく働き続けていたら、いつしか自分を見失っていた」。家族の話に耳を傾ける余裕もなく、ストレスで従業員との関係もぎくしゃくし始めていた。

 会社の経営に影響が及ぶのは時間の問題――。そんなとき、妻が贈ってくれた1冊の本が目を開かせてくれた。「バガヴァッド・ギーター」(神の歌)。無私の行為を理想として掲げたヒンズー教の聖典の一つだ。

 努力は人間の義務であり、結果を考えて打算的な態度をとってはならない――。3カ月間、自宅で1日中聖典と向きあい、精神面を重視する生き方を学んだ。ストレスは消え、自信もよみがえった。

 「いまでは社員にも時々、自分があの時考えたことを伝えています」。心の負荷を減らせば生産性は上がる。それが高速経済に乗る方法だと悟った。会社の特許取得ペースは、社長の休暇前の4倍にはね上がった。

 予想を超える速度で変わる社会は地球人の心と体に異変を生じさせかねない。だが、高速社会はもはや避けることのできない現実。変わることのない心のよりどころを手にし自己を見失わないことが、スピードの“風圧”に吹き飛ばされず新しい時代の果実を獲得する道となる。

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