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2000年 地球人は
第3部 個の経済

「日本経済新聞 1面企画」


(2)通貨規制飛び越す

 今年2月、大西洋を望む米フロリダ州メルボーンに事務所を構えるダグラス・ジャクソン氏(43)のもとを、1人のマレーシア人男性が訪ねてきた。

 ネットで金本位

 「パキスタンやアラブ首長国連邦(UAE)などとの間の資金決済を、通貨を介さずにネット上で処理できますか」。石油商を名乗るその人物はこう切り出した。ジャクソン氏が編み出した「イー(e)ゴールド」という、金に裏打ちされた新しい電子決済の仕組みに興味を持ち、わざわざマレーシアからやって来たのだという。

 「イスラム教の聖典に従うと、真の貨幣は金利を伴わない金だけ。だから金を背景に決済したい」。宗教上の事情を強調する男性は「それなら、我々のシステムはぴったりです」とひざを乗り出すジャクソン氏の説明に満足げに帰っていった。

 マレーシアではアジア危機を機に1998年秋から通貨取引規制が敷かれ、外貨の海外送金は不自由だ。だが、貴金属のやり取りなら問題ない。そのせいもあってか「最近、大量の金を預けてくるマレーシア人が多い」とジャクソン氏は明かす。

 イーゴールドは金など4種類の貴金属を用いるネット上の決済システム。利用者は貴金属を預けると、それに相当する金額の範囲で他の利用者と資金をやり取りできる。貴金属を裏付けにしたサイバー空間上の「金本位制度」ともいえる。

 50カ国に利用者

 「いいデザインだな。素材もよさそうだし」。昨年10月、エストニアの首都タリンのアパートで米国の電子ショッピングのホームページを見ていたポール・バフール氏(23)は、1枚のTシャツに目をとめた。

 以前、仕事の報酬をイーゴールドを通じて受け取ったことがあった。そこから0.061765トロイオンス(約1900円)の金を米国の業者に払い込み、エストニアの青年はドルを介さずにTシャツを手に入れた。

 96年秋に始まったイーゴールドの口座数は2万7000を超え、さらに増え続けている。利用者は約4割が米国外の住民だ。カナダなど先進国のほか、ロシア、ブラジル、南アフリカなど50カ国以上に散らばる。ドルなどの国際決済通貨を持っていない人や、外貨規制が厳しい国の住民でもグローバルに広がる電子市場に参加できる。

 見方を変えれば、イーゴールドはサイバー空間だけで流通する仮想通貨をやり取りする仕組みだ。ジャクソン氏自身、こう言い切る。「我々は決済手段となる通貨をネット上に生みだした金融機関でもあるんだ」

 サイバー空間で何か新しいことが起きている、と気づいた米連邦捜査局(FBI)からある時、電話がきた。「あれこれ細かく聞かれたが、最後は納得して口座まで作ってくれたよ」。ジャクソン氏は自信満々だ。

 現金流通が減少

 ネット時代の幕開けが、個人の決済手段を多彩にしつつある。金などを使わない普通の電子決済も、企業間の大口取引だけでなく個人レベルにまで降りようとしている。

 「おカネが振り込まれています!」。米カリフォルニア州に住むアンドリュー・ブレナー氏(31)は、友人に貸していた映画代8ドル50セントが返ってきたことを電子メールで知った。

 これは米エックスドットコム社の電子決済サービス。利用者はパソコンに送金先のメールアドレスと金額などを打ち込む。するとネット上に相手名義の口座ができ、そこに利用者の口座からおカネが振り込まれる。相手には電子メールで通知が届く。

 昨年11月に始めたサービスの会員は現在60万人。「米国内で毎日1万人ずつ増えている」と話すエロン・マスク会長(28)は、欧州や日本にも進出しようと計画を練っている。

 個人レベルの電子決済は、もはや突出した実験ではない。80年代から銀行業務の電子化が始まったフィンランドではここ数年、電子決済の普及で個人の現金決済が急減。国内総生産(GDP)比で見た市中に出回っている現金の割合(99年末時点)は2.43%と、日本の4分の1以下に縮小した。

 情報技術(IT)革命とグローバル化は、利便性を求め、国境や規制を越えようとする個人に新しい資金取引や決済の手段を与える。サイバー空間を奔放に動き回る地球人は、既存の秩序にあぐらをかく銀行や金融システムに思わぬ打撃を与えるかもしれない。

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