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2000年 地球人は
第3部 個の経済

「日本経済新聞 1面企画」


(7)百物百価

 ニューヨーク市郊外の閑静な住宅街。デビッド・テシュラー氏(53)は自宅の二階にあるパソコンの前に座り、インターネットで買い物を始めた。

 希望価格を提示

 「コーヒーがもうないんだ」といいながら、ネット販売大手の米プライスライン・ドットコムのホームページを開く。画面にいくつかの銘柄が出てきたら「どの銘柄でもいい」を選ぶ。次は値段。店頭価格は4-5ドルだが、それより低い価格も4つ出ている。1番安い2ドル99セントを希望価格として選び、「数量ひとつ」と入力した。

 のぞき込んでいたジョイ夫人(44)がいう。「そうそう、ドッグフードも買わないと」。夫妻は店頭価格11ドルの10キロ入りドッグフードで、3ドル88セントの価格を選んだ。

 ミルク、パン、卵など、ひととおり選び終わると、すべての商品で「イエス」の表示が出た。どの商品も夫妻の希望価格で売ってくれるメーカーがあるということだ。次の画面はテシュラー氏の名前や購入した商品の写真・価格、商品を実際に売っているスーパーを記した一覧表。これを印刷して夫妻はパソコンのスイッチを切った。

 「商品によっては希望価格で売ってくれるメーカーがなくて『ソーリー(残念)』と表示されるときもある。でも次の日に試すか、希望価格を少し上乗せすれば、だいたいは買える」

 医療保険の請求代理業を営むテシュラー氏と病院に勤務するジョイ夫人。仕事に追われる2人が印刷した購入商品一覧表を持って近所のスーパーへ行ったのは、次の休日だった。

 商品を陳列棚から取り、レジに行く。代金はネットで商品を選んだときにクレジットカードで払っているから、印刷した一覧表を渡せば買い物完了だ。店頭価格で合計167ドルの商品が66ドル。メーカーと交渉して勝ち取った自分だけの価格である。「1週間平均の食品代は以前の半分以下の120ドルになった」。夫妻は笑顔でいった。

 自分仕様の保険

 米東部で1999年秋に始まり、15万人が利用するネットでの買い物。例えば在庫を急いで減らしたいメーカーは、半値でも数がさばけることがわかれば値引きに応じる。一方の消費者も、商品がすぐに欲しい人は希望価格を徐々に上げながら売ってくれるメーカーを探し、あくまで安値買いを狙う人は気長に低い価格を提示し続ける。売り手も買い手も、その時々の相手の情報をネットで簡単につかめるから価格が柔軟に動く。

 米有力スーパーA&Pのマーケティング担当副社長、アンディ・カラーノ氏(51)はいう。「ネットでは消費者1人ひとりが違う価格で買い物をし始めた」。消費者が100人いればメーカーと取引する市場がネット上に百できて百の価格がつく。一物一価ならぬ百物百価である。

 モノだけではない。サービスでも百物百価が広がり始めた。

 「死亡保険金50万ドルの生命保険。31歳男性、喫煙せず、飛行機も操縦しない」

 ネットの保険市場を運営する米クオートスミス・ドットコム。そのホームページに加入の条件を入力すると、画面に200社以上の保険商品がズラリと並んだ。20年間の保険料総額は最低6300ドルから最高14万9000ドルまで。なかの1社を選ぶと、健康状態などによってさらにいく種類もの保険の選択肢が示される。消費者は自分の健康や財布の中身、人生設計に応じて自由に保険料を設定できる。

 「需要供給の情報を偏りなく入手できる完全市場は教科書のなかにしかなかった。ネットでそれを実現した」。クオートスミスの社長、ロバート・ブランド氏(46)はそういいながら2枚の紙を並べてみせた。死亡保険金25万ドルの年間保険料のデータで、1枚目の96年は平均323ドル、2枚目の99年は平均183ドル。「ネットが保険料低下の理由のすべてではないが、保険料がガラス張りになって主導権が保険会社から個人に移ったのは間違いない」

 経済格差拡大も

 もっとも、ネットを使えない人は買い物でも保険でも企業の言い値に従うしかない。ネットで買い物をするテシュラー氏はいう。「妻の母はパソコンをいまだにタイプライターだと思っている。そういう高齢者やパソコンを買う余裕のない人が損をするのは、問題といえば問題かもしれない」

 情報社会の速い動きについていける人といけない人。両者の経済格差を広げつつ、いま価格の革命が進み始めた。

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