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2000年 地球人は
第2部 国を揺さぶる

「日本経済新聞 1面企画」


(2)脱フランス記

 大統領に直訴状

 自分の国の行政サービスに見切りをつけ、村ごと隣国へ移籍する――。そんな一見、荒唐無稽(むけい)な話を欧州の小さな村が真剣に考えている。

 「拝啓 シラク大統領閣下 我々は未来の世代を守らねばなりません。フランス共和国に村の鍵(かぎ)を返します」

 ピレネー山脈が広がる仏南部、スペインとの国境沿いのエーヌ村。この人口100人ほどの寒村の村長、アラン・ブスケ氏(50)がシラク仏大統領に「直訴状」を送ったのは昨年3月のこと。国境の向こう側のスペイン・カタルーニャ州への村の帰属変更を求める内容だ。以来、村民はひたすら大統領からの返事を待っている。

 きっかけは村の財政悪化。酪農だけでは食べていけず、村は収入源としてスキー客を頼りにしていた。ところが雪不足で客数が激減。銀行からの借入金返済に困り、一時は村の施設の電気を止められる事態に至った。

 国や県の補助金は窮状を打開するには程遠い。県から返ってくるのは「自己責任」という冷たい言葉。村民たちは「見放された」という思いを募らせ、村長を囲み議論を重ねた。

 「そもそも私たちはカタルーニャ人じゃないか」。ある日の会議。1人の村民の発言に、だれもがうなずいた。この村では皆、仏語に加えカタルーニャ語も話す。カタルーニャ州の住民になれば、仏側より固定資産税や住民税などの負担が軽く、暮らしは楽になる。「村ごと移籍しよう」。「脱フランス」の決定は村民の総意だった。

 手紙を出して間もなく1年。村の意思を伝えたカタルーニャ州政府からも正式な反応はないが、同州の国会議員からは支持する声が出始めた。村がたたいた扉からの一筋の光明だ。

 帰属先を変えるのは「簡単ではない」とブスケ村長は認める。でも、と村長は続けた。「地方分権って何か、皆で考えたのです。私たちに国を選ぶ自由があってもおかしくないでしょう」

 共同体作り探る

 国と国の間の壁を低くするグローバル化は、従来の国家の枠組みに押し込められていた人々の意識を変えつつある。それは国民を管理することにあぐらをかいていた伝統的な国家に「三くだり半」を突き付け、国境を超えた独自の共同体作りを模索する動きにもつながる。

 ドイツ東部の町、ツィッタウ。町の東端を流れるナイセ川の向こうはポーランド、上流にはチェコがある。ゲルハルト・ワッテロート氏(46)は毎週、車で川を渡り「ユーロリージョン・ナイセ」の事務局長会議に出席する。3カ国にまたがる地域の“自治政府”会議だ。

 ユーロリージョンとは、欧州の自治体間の国境を超える地域協力組織。東西冷戦の終結を背景に、ここ10年ほどの間に急増した。「ナイセ」の場合、ポーランドやチェコの工場排水が川を汚す公害が始まりだった。

 ワッテロート氏は役場の職員として対策に取り組んでいたが、国の対応は遅い。3カ国の協力が必要なため、調整は複雑だ。「国や国境にこだわっていると、らちがあかない」。業を煮やし、地域の関係者を招いて91年、ユーロリージョンを発足させた。

 昨年、チェコ領内に共同で大型浄水器を設置し、水質改善に成功した。「国境の川に、もっと橋を架けようという計画もある。国の動きを待つより、地域の発展のため地元どうしで手を組む方が早道なのです」

 転々とする国籍

 20世紀を通じ国際政治にほんろうされ続けた中欧の小国スロバキア。欧州連合(EU)の外交・安保担当上級代表を務めるハビエル・ソラナ氏(57)の心には、この国に住む1人の老人の歴史が焼き付いている。

 昨年秋、北大西洋条約機構(NATO)事務総長として訪れた時のことだ。「私の家を見てください」。中世の名残の色濃い町を歩いていると、その老人が近寄ってきた。古くて頑丈そうな石造りの家だった。「私は生まれてからずっとこの家に住んでいます。でも暮らした国は次々と変わってきたのです」

 1918年のオーストリア・ハンガリー帝国崩壊によるチェコスロバキア誕生。その後のスロバキアとしての独立、ナチス・ドイツの保護国入り、再度のチェコスロバキア。そして93年に生まれた現スロバキアで、実に6カ国目となる。

 「返す言葉もなかった」と演説で振り返るソラナ氏。「平和で国境などいらない欧州を」と力説するのは、国家の論理に国民が振り回される時代への決別が必要だと考えるからだ。

 国がすべてだった時代は変わる。小さな村や地方、個人の問いかけも、単なるさざ波ではなくなりつつある。

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