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2000年 地球人は
第2部 国を揺さぶる

「日本経済新聞 1面企画」


(4)イスラム化の波

 エジプト最高裁長官アリ・ハムザ・ケドゥル氏(64)はみけんに深いしわを寄せた。「なぜ政府はわしの言うことを聞かないんだ。シャリア(イスラム法)に反する法律など論外だ」

 男女同権に圧力

 今年1月、政府が女性の権利を大幅に拡大する81条から成る民法改正案を国会に提出した時のことだ。26条に「妻は夫の許可無しで海外渡航できる」とあった。「許可がいらないだと?」。法案は長官の知らない所で書き換えられていた。

 男性優位の伝統が残るエジプトでも、欧米的な男女同権の考え方は着実に浸透しつつある。しかし、熱心なイスラム教徒である長官の目に26条は「越えてはならない一線を越えるもの」と映った。

 2年前、最高裁判事だった長官は政府の法案準備委員会に招かれた。「妻は外出する時、夫の許しを得ること、とシャリアは定めている。海外旅行の際、妻が許可をもらうのは当然だ」。司法の重鎮の発言に、多くの委員がうなずいた。委員会は法曹界の結論として「許可は必要」という意見を政府に伝えた。

 そして先月。長官は公の発言を控え、国会の論戦を見守った。「もし新法がこのまま成立し、旅行を拒否された妻が訴訟を起こしたら、どう裁けばいいんだ。新法優先か。それともシャリアか」

 長官には力強い味方がいた。世界のイスラム教徒12億人の9割を占めるスンニ派の最高権威である宗教機関「アズハル」だ。その意思決定機関「40人委員会」が全会一致で「26条はイスラムをゆがめる」と判定を下したのだ。

 欧州連合(EU)との経済関係強化をめざすムバラク政権にとって、男女同権の推進は重要な政策課題だった。だが、「イスラム法の順守」を説く宗教界と法曹界からの圧力は、政府側の予想以上に強かった。

 結局、26条を修正したうえで法案は可決された。女性の離婚請求手続きは簡素化されたものの、「自由な海外旅行」への扉は閉ざされたままだ。

 高い人口増加率や米国、アジアなどでの勢力拡大を背景に、グローバル社会で影響力を増しつつあるイスラム。そのイスラム教国家の内部で、世俗の政策運営を担う政府と宗教界が微妙な綱引きを演じている。

 金利廃止の判決

 パキスタンでは同じころ、宗教界が政府の経済運営に注文を付け、イスラム色を鮮明にするよう迫っていた。

 「金利はイスラムの教義に反する。2001年6月までに金融制度を変更せよ」。昨年12月、パキスタン最高裁のイスラム法廷は宗教指導者らの提訴を受け、金利の廃止を政府に求める判決を下した。ムシャラフ陸軍参謀長(56)率いる軍事政権はただちに、元中央銀行高官や国営銀行の首脳、イスラム法学者らから成る委員会を設け、制度見直しに着手した。

 今月3日、カラチの中銀本店で開いた委員会の初会合。「イスラム的制度が非現実的だという意見は全く出なかった」。出席した元中銀副総裁、アシュラフ・ジャンジュア氏(65)は会議終了後、こう強調した。

 「預金金利は廃止する。代わりに銀行の利益を6カ月ごとに計算し、預金者に払う利回りを決めればよい」。イスラムでは事前に金利を設定するのは「搾取的」と見なされるが、事後的な「利益配分」なら問題ない。イスラムの教義と近代的な金融制度との調和は可能、とジャンジュア氏は主張する。

 経済再建危ぶむ

 しかし、金融政策を担う現職の中銀総裁や蔵相は判決への言及に慎重だ。ムシャラフ政権は「経済再建に外資導入は不可欠」として、宗教と切り離した経済運営を目指していたからだ。

 米シティバンクのパキスタン現地法人総支配人、ナディーム・フセイン氏(43)はイスラト・フセイン中銀総裁(58)に毎週のように面会しているが、「総裁は判決について話そうとしない」。絶対的な権威であるイスラム教を根拠とした最高裁判決を前に、国際金融市場と向き合う当局者も口をつぐまざるを得ない、と胸の内を察した。

 イスラム式の金融制度導入に前向きなジャンジュア氏にも、万全の自信があるわけではない。例えば、対外債務の利払い問題。国際通貨基金(IMF)に出向した経験もあるだけに「利息は求められれば、約束通り払わざるを得ない」とわかっているからだ。

 世界各地で広がるイスラム化の波。欧米主導のグローバル化という、もう一つの大きな流れとぶつかったとき、イスラム国家は世俗と宗教的価値観の調和という課題に直面する。

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