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2000年 地球人は
第2部 国を揺さぶる

「日本経済新聞 1面企画」


(7)使われぬ教科書

 “欧州連合(EU)推奨”の歴史教科書が、15の加盟国のどこにも採用されず、宙に浮いている。

 採用は政治判断

 ロンドンに住む教科書編集者フレデリック・ドルーシュ氏(58)が中心になってつくった『ヨーロッパの歴史』。どの国にも偏らない欧州人共通の歴史認識を育てようと、EUの補助金を受けて1996年に出版した。

 「どの教科書を採用するかは政治判断です。残念ですが、あなたの教科書を採用するのはまだ無理です」。2月11日、ドルーシュ氏はパリでフランス政府の高官に言い渡された。

 「また、ダメだったか」。肩を落とすドルーシュ氏。「でも、まだまだあきらめない。この教科書には、私の個人的な思いもこめられているからね」

 少年時代、英仏両国で教育を受けた彼は、ナポレオンへの評価が正反対なのに驚いた。フランスでは、フランス革命を継承した近代国家の創設者と教わったのに、英国では、侵略者だとか好戦主義者だという。偉大な英雄も、なぜか、ほかの国にいくと英雄ではなかった。

 かつて抱いたこの疑問への、自分なりの解答が『ヨーロッパの歴史』だった。「国家や民族のあつれきをなくすには、欧州をひとつの文明としてとらえ、共通の価値をみつけていくしかない」。そして教科書では、ナポレオンの業績は「帝冠をいただいた革命」と書いた。独裁者でもあり、革命の継承者でもあったという評価である。

 ドルーシュ氏からみると、欧州の統合も各国が同じ歴史観を持てないうちは本物ではない。実際、右翼政党「自由党」が政権入りしたオーストリアは、統合の底の浅さを示した。2度の大戦の反省から生まれたEUなのに、ナチスの否定という歴史認識さえ加盟国で共有できていない実態を露呈したからだ。

 「ヒトラーが進めたドイツと自国の統合を、当時のオーストリア国民は必ずしも嫌がっていなかった。でも学校では、われわれはナチスの被害者だと教えている。歴史に真正面から向き合っていないからナチスをきちんと評価できず、右翼の台頭を許した」と指摘するドルーシュ氏。「歴史教育は国家の意思そのもの。それは現実だが、かといって何もしなければ欧州が歴史を共有するのは難しい」

 補助金巡り衝突

 通貨統合を実現、ひとつの到達点に至ったEUが統合の理念をさらに深めていくのか。それぞれの国に固有の価値も大切にしていくのか。欧州の国家はいま重い問いかけのなかにいる。すでに一体化したはずの経済政策でも、それは変わらない。

 「選挙で選ばれたわけでもない彼に、どんな権限があるというのか」。EUの“内閣”である欧州委員会の競争政策担当委員、マリオ・モンティ氏(56)に、独ザクセン州の経済労働相、カーヨ・ショマー氏(59)がかみついた。

 発端はモンティ氏が委員に就任した1999年9月。域内の不公正な経済行為を監視する競争総局のトップとして、モンティ氏は加盟国政府に向けジャブを放った。「政府による企業への補助金にはこれまで以上に厳しく対処する。政治的な圧力には屈しない」。加盟国政府の企業補助金を原則として禁止する“EU憲法”アムステルダム条約を厳正に運用するという宣言だった。

 続いて11月、独フォルクスワーゲンのザクセン州進出にからみ、独連邦政府と州政府が計画している優遇税制は違法な補助金にあたる疑いが強いと判断。モンティ氏は事務局に詳細な調査に入るよう指示した。

 知らせを聞いて、ショマー氏は歯がみした。「モンティ氏は一度だってザクセンに来ていない。現地もみようとしないEU官僚に何がわかるのか」

 理念か現実か

 旧東独にあるザクセン州は産業基盤が弱く、東西ドイツ統一後、一時は8割の人が職をなくした。いまも街には失業者があふれる。雇用吸収力のある自動車工場は、何としても誘致したかった。フォルクスワーゲンはチェコのプラハも誘致に動いている。補助金の支出は政治家としてのぎりぎりの決断だった。

 「ドイツは欧州委員会に経済政策まで決める権限を渡してはいない。私はあくまでも戦う」。ショマー氏は腹を決めた。

 5年前までイタリアのボッコーニ大学の経済学教授をつとめ、いまも大学に論文を寄稿するモンティ氏。「競争こそが欧州の消費者や社会に利益をもたらす」と信じる、理念の人である。対するショマー氏は経済的苦境にあえぐ旧東独の現実のなかにいる。

 欧州の統合が後戻りすることはもうない。それでもなお、超国家政府と国民国家のきしみは続く。

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