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2000年 地球人は
第2部 国を揺さぶる

「日本経済新聞 1面企画」


(10)マネー戒厳令

 国債支払い延期

 今月初め、ロンドン。大手米銀JPモルガンの現地法人で新興市場の債券売買を受け持つアーナブ・ダス氏(35)の目は、情報端末にくぎ付けとなった。「ウクライナが国債の支払い繰り延べを提案」。電話が一斉に鳴り、トレーディングルームの空気はにわかに張りつめた。

 いったん発行した国債は条件を変更しないのが原則。それでも変えたいなら投資家全員の同意が必要で、まず不可能というのが市場関係者の常識だった。

 ところがウクライナ債には、プロも見過ごしがちな一節が盛り込まれていた。「多数決条項=債権者の4分の3が同意すれば条件を変更できる」。資金繰りに窮したウクライナはこれを盾にとって、国債の元利払いを先に延ばそうとした。

 過去にもパキスタンなどの国債支払いを繰り延べた例はある。だが今回は政府保証債も含めると26億ドル相当と巨額なうえ、ドイツなどの個人投資家が多数含まれており、影響はケタ違いに大きい。ウクライナ政府は投資家の同意取り付けに自信を見せるが、「パンドラの箱を開けるようなものだ」とダス氏は警戒心を募らせる。

 実は「パンドラの箱」の開封を促したのは、新興市場危機の火消し役を務めてきた国際通貨基金(IMF)だった。

 資金供給力欠く

 「国債の支払いを繰り延べずに問題を解決できるのか」。IMFの暫定トップである専務理事代行に最近就任したスタンレー・フィッシャー氏(56)が、こうウクライナに迫ったのだ。

 アジアを発端に中南米、ロシアと飛び火した97,98年の経済危機。国境を超えて動き回る民間投資マネーの引き揚げで新興国はほんろうされた。グローバル時代の市場危機に対し「IMFには十分な資金供給力がなかった」と同氏は振り返る。

 非常事態が発生したら、強権を発動して市場の「ルール」を停止し、多数決条項という「マネー戒厳令」を突き付けるしかない。これが結論だった。

 ワシントンのIMF本部で、フィッシャー氏はきっぱりと語った。「国が経済危機に見舞われたら、民間にも負担を共有してもらわないと事態は収拾できない」「そのカギとなる多数決条項の導入を、これからも新興国に呼びかけていく」――。

 マネーの暴走がもたらす経済秩序の破壊を未然に食い止めようと、国の側は知恵を絞る。

 だが、その先にも市場の圧力が待っている。「支払いが不確実な多数決条項付き国債は敬遠され、新興国の資金調達コストは跳ね上がる」(ダス氏)。市場関係者の反応は冷ややかだ。

 再起に戦々恐々

 世界を震え上がらせた1人の男が再出発の道を歩き始めた。ジョン・メリウェザー氏(52)。

 同氏が率いた米国の大手ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)は98年、ロシア危機で経営が破たん。金融システムの動揺を恐れたニューヨーク連邦準備銀行を、民間救済資金のとりまとめに走らせた。

 メリウェザー氏は36億ドルの資金を完済するや、昨年末、同僚と新しいヘッジファンドを旗揚げした。「LTCMの件はけじめをつけた」「私も同僚もやる気満々だ」。今年に入り、ひそかに日米欧の金融機関首脳を訪ね協力を求めた。

 日欧に比べると規制に消極的な米国だが、活動を再開した同氏には厳しい監視の目を注いでいる。「投資家の出資を募っている間はマスコミでの発言を厳禁する」「不特定多数への投資勧誘をしないように」。米証券取引委員会(SEC)はヘッジファンドに関する証券法規を守るよう念を押してきた。

 米議会には最近、詳しい経営実態をSECに報告するよう義務づけるヘッジファンド規制法案が提出された。法案提出者のエドワード・マーキー下院議員(53)は「これ以上、米国民をカジノゲームの危険にさらすわけにはいかない」と語った。

 こうした包囲網をよそに、新会社には3億ドル近い資金が集まった。目標は10億ドル。世界を駆けるリスクマネーはなお奔放さを失わず、メリウェザー氏の「敗者復活戦」を後押しする。

 グローバル時代の象徴的存在である金融・資本市場。地球人には絶好の活躍の舞台だが、国の描く「危機への処方箋(せん)」には埋めきれない空白が広がっている。=第2部おわり

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