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2000年 地球人は
第2部 国を揺さぶる

「日本経済新聞 1面企画」


(6)サイバー民兵

 国防は国家が担うもの。そんな常識がサイバー空間から崩れつつある。

 CIAが勧誘

 新興ハイテク企業専門の米国人投資家、ギルマン・ルーイ氏(39)は誘いの言葉に耳を疑った。「ある政府機関があなたのような優秀なベンチャーキャピタリストを探しています」。政府機関とは、米国の安全保障を情報面で支える米中央情報局(CIA)。こともあろうに、シリコンバレーの民間ビジネスから最も遠い存在に見えていた組織だった。

 米アトランタの航空ショーで会ったそのヘッドハンターは数週間後、1束の極秘文書を見せた。

 「ザ・エンタープライズ」。こう表紙に書かれた文書は、CIAによる官製ベンチャーキャピタル(VC)の設立計画書だった。民間で生まれるネット関連の先端技術を育て、政府の情報セキュリティーやサイバーテロ対策に役立てる狙いだ。

 若くしてゲームソフト事業で成功し、数年前ベンチャーキャピタリストに転じたルーイ氏は、国家と組む前代未聞のプロジェクトに心が動いた。だが、計画書はいかにも役所的な発想で作られていた。「投資先の技術は政府だけが使用する」「スタッフは数百人規模」――。

 「これでは、まるで軍の研究開発機関だ。成功はおぼつかないですよ」。ルーイ氏は計画を白紙に戻すよう主張した。

 代わりに提案したのは、オープンで身軽なシリコンバレー方式。情報を囲い込まず、民間のベンチャーキャピタルやハイテク企業と交流する。必要なら育てた技術も共有する。スタッフは50人以下でよい――。

 国防に関する技術は長年、国家機密として密室で開発、管理するのが当たり前だった。しかし、ミサイルや戦闘機、軍艦といった兵器開発がほとんどすべてだった時代は終わり、インターネットを利用したサイバーテロ対策がいまや緊急課題。政府と一体になった軍事産業の技術独占は崩れ、民間の1個人の考え出した技術が国の安全保障を脅かす。

 「民間の新技術を素早く取り込まなくては追いつけない」。問題意識を共有していたCIAはルーイ氏の意見を受け入れ、昨年末、官民二人三脚のベンチャーキャピタル「イン・キュー・テル」社が誕生した。

 ルーイ氏は会社発足を前に昨年秋、慣れない背広姿でワシントンのCIA本部を訪ねた。打ち合わせでジョージ・テネット長官(47)が話しかけてきた。

 「あんまりかき回さないよう頼みますよ」。冗談めかしたその言い方に、ルーイ氏は民間の力に頼らざるを得ない政府の戸惑いと期待の両方を感じ取った。

 戦わずに大敗

 世界最高の軍事技術を誇る米軍のシステムに、やすやすと入り込むハッカーたち。国防総省の情報システムは昨年、正体不明のハッカーの侵入を受け、技術情報を盗み出された。国防システムを揺るがす敵が民間人なら、防衛する側も民間の力に頼る。国を守る「サイバー民兵」時代の到来だ。

 昨年10月、米国防総省が実施したサイバー演習「ゼニス・スター」はさんざんな結果を示した。

 ハッカーの攻撃を受け、米東部からハワイに至る主要軍事基地は軒並み停電、900以上の緊急電話回線が不通に陥る。国防総省と基地を結ぶ情報システムも寸断され、米軍は戦わずして敗北――。

 演習で優秀なハッカー役を演じたのは、20人の民間人だった。共和党系のランド研究所のコンピューター技術者たちだ。

 「軍関係者だけで演習をやっても、実際のハッカーの攻撃力は再現できない」と演習に加わった軍事専門家、マーチン・リビッキ氏(50)は話す。ランド研の「民兵」たちは、軍のサイバーテロ対策づくりに欠かせない存在だ。

 「敵」にすり寄る

 昨年夏、米ラスベガスで開かれたコンピューターの安全管理セミナー。大物ハッカーが毎年主催し多数のハッカーが参加するこのセミナーに、今回は国家安全保障局がスポンサーとして名を連ねた。会場には米政府関係者たちの姿が目立つ。

 「政府が何か対策を講じると、ハッカーには迷惑なんだろうね」。国家安全保障会議の幹部、ジェフリー・ハンカー氏(43)のあいさつに長髪、入れ墨といった格好の参加者たちが沸いた。セミナー、パーティー――政府高官たちが積極的に溶け込もうとする姿に、若いハッカーたちは「官僚がこんなに打ち解けるなんて」と驚いた。

 敵であるはずのハッカーにまでも、すり寄る米政府。「新しい戦争」の見えない最先端をとらえようと、国家はもがく。

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