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2000年 地球人は
第2部 国を揺さぶる

「日本経済新聞 1面企画」


(5)消える納税者

  • 州の管轄越える

     「多くの米国の消費者は“犯罪者”だ」。ワシントンの民間コンサルタント、スタンレー・ソーカル氏(38)が放った一言が米議会を揺さぶっている。

     昨年末の下院電子商取引諮問委員会。「皆さんはアマゾン・ドット・コムで本を買った時、正直に州政府に申告しますか」。居並ぶ委員に、ソーカル氏は皮肉な笑顔で問いかけた。

     日本の消費税や欧州各国の付加価値税にあたる米国の売上税。徴税権は州政府が持つ。徴税の大前提は売り手と買い手が同じ州内にいること。売り手が買い手から売上税を預かり、後で州に納める。企業の側から消費を捕そくする仕組みだ。

     ところが、インターネットを使った電子商取引で消費者が州外からモノを買うと、こうはいかない。州政府の管轄権が州外の企業に及ばないからだ。「そういうとき、消費者は自分で納税書類を作り、居住地の州政府に申告する義務があるが、自己申告するひとはまずいない」。多くの米国民は自分で気づかないうちに脱税を犯している。

     「州政府が売上税を徴税する仕組みは限界に来ている」。うなずく委員たち。ソーカル氏の現実論には説得力があった。

     委員会の後、委員長を務めるバージニア州のジム・ギルモア知事(50)はすぐにクリントン大統領に手紙を送った。「サイバー空間は非課税地帯にすべきだ。取引に自由と低コストを保証すればネット産業も一段と成長する」。連邦議会で審議中のネット売上税禁止法案への支持を求める手紙だった。

     バージニア州の経済はハイテク産業が支えている。「ネット売上税を葬ればハイテク企業がさらに集まる」。そう読んだ政治家ギルモア知事は、自ら徴税権を捨てる道を選んだ。

  • 秘密兵器を準備

     2月2日午前。上院予算委員会では、ミシガン州のジョン・エングラー知事(51)がネット売上税禁止法案への反対論をまくしたてていた。

     「州の徴税権を踏みにじる連邦法案は取り下げていただきたい」。ネット税禁止法案が成立すると、複数の州にまたがる取引は課税できなくなる。財源の7割を売上税に頼るミシガン州にとって死活問題。「財源に穴があけば公共サービスの責任を果たせない」

     2日後。12の州政府や州議会関係者が、雪の中をワシントンのホテルに集まった。会議のテーマは州の徴税権を守る“秘密兵器”の開発を進めるかどうか。ユタ州のマイク・レビット知事(49)が導入を提唱している徴税システムである。

     このシステムは、ネットで注文を受けた小売業者が消費者のクレジットカード番号を入力すると、消費者がどの州に住むかを割り出し、売上税をはじき出す。あとは、クレジットカード会社が料金と税を徴収して小売業者と州の税当局に支払えばいい。これなら州境を越えた取引もつかまえられる。

     「完成すれば、われわれの切り札になる」。わずか4時間の会合で、システム導入を盛りこんだ共通州法を、12州が2001年に一斉に施行することを申し合わせた。

     もっとも、この徴税システムも、クレジットカードを使う消費者しか捕そくできないし、そもそもネット税禁止法案が成立すれば使えない。法案はいまのところ賛成派が優勢とされる。

  • EU内でも協議

     1999年6月。欧州連合(EU)加盟国の税務担当者がブリュッセルに集まった。国境を越える電子商取引に付加価値税をどうやって課税するかを協議するためだった。「これでは、わが国の税収基盤が崩れてしまう」。スウェーデン大蔵省のエバ・カールソン課長補佐(38)はEU事務局が示したペーパーをみてうめくようにいった。

     ペーパーは、EU企業も非EU企業も、加盟国のうちどこか1カ所に電子商取引の拠点を登録させ、その国で徴税する方法を提案していた。個々の消費者をつかまえられない以上、ひとつの企業からモノを買った消費者はすべてその登録国に住むと考えて、企業に納税させるしかないとわりきったわけだ。

     スウェーデンの付加価値税の税率は25%。ルクセンブルクと10%もの開きがある。カールソン氏には、高税率を嫌ってスウェーデンから企業が逃げるのが目に見えるようだった。

     米国と違い電子商取引への課税では一致しているEUも、税率格差をめぐる綱引きのなかで、具体化は簡単ではない。

     ネットのなかに納税者の姿が消え、税が逃げてゆく。いまのままだと、2002年に徴税の網から逃れる売上税は米国だけで200億ドルにのぼるという。消費者にこれまでにない自由を与える電子社会は一方で、政府の根源的権力である「税」を直撃している。

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