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通貨統合の次は「言語統合」を――。ブリュッセルの欧州連合(EU)本部で働くディエゴ・マラーニ氏(40)の夢は、欧州に新たな「共通語」を広めることだ。
イタリア出身のマラーニ氏はEUの文書翻訳官。言語のプロである彼が編み出した「ユーロパント(汎欧州)語」は英、独、仏、伊、スペイン語などをごちゃまぜにした言語である。
使い勝手を優先
きっかけは、ある日の同僚との会話だった。さまざまな国の出身者が集まる職場。相手によって話す言語をかえるのが、とてもわずらわしく感じた。英語なら皆話すが、英国人がいない時まで使うのは不自然だ。「それなら英語をベースに、欧州各国語をまぜた言語を作ったらどうか」。こんな思いに駆り立てられた。
「共通語」といっても定型はない。過去形は語尾にed、複数形にはsをつけるといった英語の文法を基本に、好きな欧州言語から単語を自由に当てはめればよい。使う人によって異なるユーロパントができるが、言語のルーツや知識を共有するから理解し合える。雑誌などに寄稿するうちに評判になり、小説を出版したり演劇の脚本翻訳を頼まれたりするまでになった。
ブリュッセルに来て16年。今でも北イタリアの故郷で方言を聞くと心が安らぐ。だが、学生の時以来なじんできたフランス語も「もう外国語じゃない」と思う。自分のように「いくつもの言語を母国語のように操る『欧州人』は今後増える」。その欧州人同士が最も気持ちを伝えやすいのは英語そのものではなく、英語を改造した言語だと信じている。
世界には文化の象徴である自国語を大切にする人は多い。だが、人類の4人に1人が話す英語が「世界共通語」になりつつある現実も無視できない。英語と、母国語や自分たちの文化とを両立させたほうがよい、と考える人たちも増えている。
着替える感覚で
「ノーニー、ノーニー(必要ないよ)」「キャン、キャン(できるさ)」。シンガポールの銀行員、エリック・リム氏(28)が友人と話す英語は変わっている。文法にこだわらず言葉を並べたり省略したりするシンガポール式英語「シングリッシュ」だ。
一方、銀行で顧客を前にした時は正式な英語。同居する祖母とは中国語の方言。リム氏にとって言語の使い分けは服を着替えるほどのことに過ぎない。
英語が母国語の米国でも刻々と新しい英語が生まれている。
サンフランシスコ近郊のキャンベル市。コンピューター周辺機器開発会社を経営するスティーブ・セイブラム氏(33)の日常会話にはハイテク英語が入りまじる。「この子がプロダクト・バージョン・ワンです」「近所にプラグ・アンド・プレーの一軒家を見つけたよ」
プロダクト・バージョン・ワンは「最初の子供」。プラグ・アンド・プレーは電源を入れればすぐ使える状態のパソコンのことで、転じて「即入居可能」の家という意味だ。「昔の人が聞いたら、僕らの英語は半分もわからないんじゃないか」
世界中から起業家が集まるシリコンバレー。「ここの住人は伝統や権威を気にしない。だれもが勝手に新しい言葉遣いを編み出し流通させてしまう」。最近「ディスク・ドライブ」という住所まで登場した。セイブラム氏が開いた「究極のシリコンバレー用語」というホームページには続々と新語が舞い込む。
ネットで新語募集
辞書編さんの世界的権威、英オックスフォード大学はいま「変わる英語」への対応に必死だ。1920年代に初版が完成した英語大辞典の初の全面改訂作業。意味や用法を記した単語カードを1枚1枚読み直す。昨年、インターネットを通じた新語募集にも踏み切った。
新語は非英語圏からも受け付ける。「取り上げるのは『正式な英語』ではなく『使われている英語』なのです」。編さん主幹のジョン・シンプソン氏(46)は、すべての人が同じ英語を話すことはもうないと認める。
英語の影響力を受け入れたうえで、使いやすいように改造していく地球人たち。2010年完成予定の「大辞典」新版の語数は大幅に増える見通しだ。現在の75万語から「100万か、150万か」。その数はシンプソン氏にも読めていない。

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