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2000年 地球人は
第1部 翔ける人々

「日本経済新聞 1面企画」


(7)わが町の通貨

 米国西海岸のバークレー。サンフランシスコ近郊の大学町に、その通貨はあった。パンの絵をあしらった5種類の「ブレッド」紙幣。住民が1997年につくった地域通貨である。

 インフレに強く

 ブレッドが流通するのは会員の間だけ。1時間働いて1ブレッドを受け取り、1時間分の労働に見合うモノやサービスに1ブレッドを支払う。1ブレッド=12ドルが目安だ。

 ギター製造・修理業のデビッド・メリー氏(29)は99年秋、月600ドルの家賃をドルとブレッドで払った。534ドルプラス5.5ブレッド。5.5ブレッドが66ドル分だ。「大家さんは人に頼んで庭の手入れをするんだけど、それに5時間半かかる。その分はブレッドで払うから、家賃もブレッドでいいって言ってくれたのさ」

 メリー氏はギターの修理代金をブレッドで受け取り、地場野菜などを買って生活の足しにしてきた。「でも何より、上がる一方の家賃をブレッドで払えるのは有り難い」。そういってブレッドの効用を解説し始めた。

 家賃が10%上がったとする。大家が庭の手入れで人を雇う時間は5時間半のままなので、5.5ブレッドは変わらず、ドルの支払い分だけ約53ドル増える。すべてドルで払うと60ドルも増えるから、約7ドル得する勘定だ。「わずかな効果だけど、この“パンのおカネ”はインフレに強いんだ」

 とぎれずに循環

 バークレーは地球規模のIT(情報技術)革命の先端を走るシリコンバレーに近い。世界から人とカネが集まってくるから家賃もうなぎ登り。98年以降40%も上がった。メリー氏の家賃は据え置かれているが、ほかのように上がったら、もっとブレッドを使いたいと思う。

 「ブレッドなら地域社会の役にも立てるしね」。メリー氏の家賃は大家を通じて庭師に回り、庭師が電気、水道の修理代に使う。利子がつかないおカネだから、みんなため込まずに使う。ブレッドはとぎれることなく循環し、地域の経済に息を吹き込む。そういう仕組みを会員はみんなわかっている。

 ブレッド生みの親の日系四世ミヨコ・サカシタさん(26)が新しい通貨の発行を思い立ったのも、地域経済の先行きへの懸念からだった。

 家賃が払えず9歳の子供とホームレス保護施設に入ったガードマン。生活費が足りないため二つの仕事をし、睡眠時間3時間で暮らす空港の荷物運搬人――。IT景気に取り残された人々が、地域社会にはいた。

 「力の弱い地域の人々に抵抗力をつけてあげたかった」というサカシタさん。グローバル経済と地域経済の両立を目指すその試みが小さな実を結び、ブレッドの会員は500人、発行総額は2万ブレッドになった。

 米国や欧州、オーストラリアなど、世界で2000もの地域通貨が流通し始めた。大恐慌のなか、疲弊した地域を復興させようとして起きた1930年代の地域通貨ブーム。いま、第二次ブームが始まった。

 地域貢献を加味

 ロンドン市北部ウォルサムストウ地区。低所得者や移民が多く住む町内では、地域通貨「ビーム」を使った“市”が開かれていた。のぞいてみると、大学職員のランカさん(38)が古着を並べている。街で買ったら10ポンド(約1700円)ぐらいするものが1着1-2ビーム。「安いね」。浅黒い顔をした移民が3着もまとめて買っていった。

 ランカさん自身、スリランカからの移民。「今の仕事につくまで、手に職がない私はポンドを稼ぐのが難しかった。でも、ビームは地域への貢献といったことを評価してくれて、簡単な仕事でも手間賃をもらえる。どれだけ助かったか」。ビームの社会でまず自分の居場所をみつけ、それからポンドの社会に巣立ったランカさん。「恩返しがしたくて古着を集めました」

 あちこちで生まれている「わが町の通貨」には、限界もある。働いた時間は問うが、質を問題にしないから個人の能力を引き出しにくい。利子がつかないために融資や投資に向かず、時間のかかる事業にはまず使えない。広く流通させるのはもともと想定していないおカネだ。

 それでも地域通貨の試みは続く。ブレッドの会員の一人が言った。「地域のみんなで、グローバル社会の底辺を少しでも支えたいと思っているんです」

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