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2000年 地球人は
第1部 翔ける人々

「日本経済新聞 1面企画」


(8)カーキカラー登場

 米東部のニュージャージー州サマーセット。深夜、漆黒のやみに浮かび上がる4階建ての建物に、カーキ色のチノパン姿の男性が次々吸い込まれていく。ここは大手証券会社メリルリンチの顧客応答センター。1日24時間、明かりが消えることはない。

 職場は情報工場

 この日、ハンク・ジョンソン氏(40)は朝8時からの勤務シフトだった。「おはよう。調子はどう?」張りのある声で同僚にあいさつした途端、目の前のランプが点滅した。

 「お電話ありがとうございます」。全米各地から来る株式売買の注文、インターネット取引に関する問い合わせに、てきぱきと答えていく。繁忙期の生産現場さながら、3交代制の職場。「情報の工場みたいだ」と感じることもある。

 以前はコンサルティング業を営んでいた。収入が不安定で、生活は厳しかった。97年、募集広告に飛びついて転職した。「やっと暮らしが落ち着いた。ほっとしているよ」。安定した収入が何よりありがたい。

 同じ職場のグレッグ・ワイズ氏(24)にとっては「知的なチャレンジ」と感じる点がこの仕事の魅力だ。大学で経済学を専攻したが、2年間働いて「投資家を満足させるには、まだ膨大な知識が要る」と痛感した。

 いまの仕事で知識を蓄え、いつの日かグローバル金融の最前線へ羽ばたきたい。そんな夢があるから休日も勉強を欠かさない。安定か飛躍か――。異なる方向を目指す2人が、示し合わせたようにチノパン姿で机を並べている。

 チノパンが象徴

 センターを統括するビンセント・ハース氏(44)は言う。「ここは工業社会の枠組みでは説明できない新空間なんだ」

 作業着姿のブルーカラーとも、スーツを着込んだホワイトカラーとも違う。くだけ過ぎず、堅苦しくもない。伝統的な労働者のイメージと一線を画すカーキ色のチノパン姿は、情報技術(IT)時代を支える新しい中間層「カーキカラー」の登場を象徴している。

 米中部イリノイ州ペオリア市に住むボブ・ヘンダーソン氏(66)は、勤め先から解雇を言い渡された日を忘れない。1990年11月11日。「グローバル化のせいさ。会社は日本企業との競争の方がおれたちより大切なんだ」。同僚の嘆きを聞いて悔しさがこみ上げた。「ソフト技術を身につけていたら、こんな目に遭わなかったかもしれない」

 かつて「ペオリアの住民」といえば、米国の中間層の代名詞だった。保守的で変化を好まない、といったニュアンスも伴う。だが、機械大手キャタピラーが本社を置く企業城下町で平穏に暮らしてきた住民は、80年代から同社の激しいリストラに見舞われた。大型コンピューターメーカーの社員として、キャタピラーの設備の保守・点検に従事していたヘンダーソン氏も例外ではなかった。

 ソフト学び再起

 あの日から8年あまり。短期の仕事でつなぎながら勉強に打ち込み、ソフト技術者としての復活を期した。99年5月、そんなヘンダーソン氏の自宅の電話が鳴り響いた。市労働局の幹部からだった。「情報システム作成の技術者として採用します」。待ちに待った朗報だ。「全力を尽くします」。自分でも声が震えるのがわかった。

 年収3万5000ドルは昔より少ないが、妻と2人暮らしだから不満はない。チノパン姿でさっそうと通勤する彼はいま、年齢より若々しく見える。

 ペオリアの市民大学、イリノイ・セントラル・カレッジ。ここには新しい時代に応じた知識と技術を身につけ再出発をめざす社会人が詰めかけている。休み時間に住宅ローン談議にふける中高年、子供連れのお母さん学生……。毎年1500人の卒業生のうち4割が30歳以上だ。

 市内では新興ハイテク企業も育ちつつある。セントラル・カレッジのジム・ミラー教授(61)は「卒業生を新興企業が吸収する好循環が始まった」と喜ぶ。

 経済のグローバル化が進むと所得格差が広がり、社会の安定役であるはずの中間層は骨抜きになる――という説がある。そんな悲観論をよそに、社会を染め替え始めた「カーキカラー」。キャタピラーの庇護(ひご)を離れ、ITの海にこぎ出したペオリアの住民が再び「典型的な中間層」と呼ばれる日も遠くないかもしれない。

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