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2000年 地球人は
第1部 翔ける人々

「日本経済新聞 1面企画」


(3)受精卵は待っている

 スペインで、約2万5000本の試験管がきょうも“誕生の時”を待っている。凍結された人工受精卵である。

 「不妊で悩む夫婦を助けたい。人工授精は教義に反すると聞きました。どうすればいいのですか」。困り果てた表情の医師に神父がこたえる。「神の領域を侵してはなりません」。カトリックの国スペインでは、こんな情景が何年も繰り返され、そのたびに試験管が増えてきた。培養ができないまま5年以上凍結されている受精卵も多い。

 宗教にしばられ

 イエズス会のジャビル・ガフォ神父(63)のもとにも、医師や子供のいない夫婦がやってくる。だが、宗教にかかわりなく、国を超えて広がる科学技術文明への備えは「いまのカトリックにはない」。肩を落として帰っていく夫婦を見送る神父。「自分の無力を痛感する」

 1999年11月、マドリードの官庁ビルの一室で、ガフォ神父は教会保守派幹部の発言をかたずをのんで見守っていた。スペインの医療関係者や哲学者、教会代表らで作るバイオ技術倫理委員会である。

 議題はクローン技術を認めるかどうか。「ここは百歩譲りましょう。医療目的に限って細胞の複製を認めます」。保守派が歴史的な転換をした瞬間だった。生命倫理と科学の折り合いをどうつけるかという点ではクローンと人工授精は同じ。「これで凍結受精卵の問題も突破口が開けるかもしれない」。ガフォ神父は遠くに光明を見た。

 教会が築いてきた規範や倫理と科学文明の上に立つ個人の生活。グローバル社会は、「聖と俗」をどう仕分けし直すかという重い課題を背負った。

 99年夏、ニューデリーの結婚仲介会社を経営するマニーシュ・コーシャル氏(32)は、海外に住むインド人の見合いの相手をインターネットで紹介する事業を始めた。

 カーストの重圧

 「インド人は学歴や職業、収入は二の次。カーストが違えば見合いはうまくいかない」。このサービスでは、登録者がネットに自分のプロフィルを書き込むとき、年齢、宗教の次、3番目にカーストを明記するよう求めている。収入を書くのは最後だ。いまの登録者は米国、カナダなどに住む25人。「カーストを間違えたら信用問題だ」。コーシャル氏はじっとプロフィルを見つめた。

 インドでも違う道を歩く人は増えている。

 ネルー大学の社会学助教授、アーナンド・クマール氏(49)は自分が若いときに起こしたある事件を、近いうちに、高校3年生の息子に話して聞かせたいと思っている。

 インド人は姓でカーストがわかる。クマール氏は11歳のとき、自分の考えで「シャルマ」という姓を捨てた。最高位バラモン(僧りょ)の姓である。

 「おまえはヒンズー教徒じゃない」。周囲の目は厳しかったが、カースト姓が聖なるものとはどうしても思えなかった。「カーストが違う相手と友達になれないのはおかしい。姓を捨てたってヒンズー教徒であることに変わりはない」

 息子には、自分の少年時代を正直に話すつもりだ。自分だけの規範で生きてきた結果味わった強い孤独感も含めてである。「なぜ、わが家に姓がないのか」。その意味を、息子にも1人の個人としてじっくり考えてほしいと思う。

 ユダヤ教徒が最も聖なる場所と考えるエルサレムの「嘆きの壁」に、若者が近づいていった。手にはヘブライ語、英語、ドイツ語などが書き込まれた紙の束。電子メールのお祈りだった。若者は壁のすき間に一枚一枚はさみ込んで立ち去った。

 巡礼はネットで

 メールを使った巡礼代行サービス。「壁」に救いを求める世界のユダヤ人から1日2,300通のメールが舞い込む。

 「仕事を終え、ひとり、コンピューターの前に座ってメールを打ちました。これで巡礼ができると思うと、新しい希望がわいてきます」。99年末に届いた、「米アリゾナに住む広告営業マン、マービン・F(65)」という名前のメールである。

 科学技術を利用しながら信仰を深めようとする世界各地のユダヤ人。世界を舞台に自立した個人として生きる地球人たちは、それぞれの宗教とどう向きあい、「聖と俗」を仕分けていくかを問われる。

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