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2000年 地球人は
第1部 翔ける人々

「日本経済新聞 1面企画」


(9)帰属文化、自分で選択

 北京の中関村地区。ハイテク企業や大学、研究所が多いこの街に、“洋名(洋風の名前)”が飛び交っている。

 「リンダちゃん、お出かけ?」。マンションのエレベーターで年配の女性が女の子に話しかけた。「あら、私たちのほかにも子供に洋名をつける人がいるのね」。劉静さん(32)は手を引いていた2歳の娘、凱達(カイター)ちゃんの顔をみた。

  • 発音にこだわる

     劉静さんは北京大学大学院の学生、夫(38)は政府系研究機関に勤める科学者。夫婦とも外国の友人が多い。外国人でも呼びやすい洋名を娘につけるのは自然な選択だった。

     字のリストアップは中国の伝統に従った。子供の生年月日、時刻を旧暦に照らして縁起のいい字を抜き出す。普通なら、そのなかから「麗」「梅」といった美しさやかわいらしさを連想させる字を選んで名前にするが、劉静さん夫婦はそこからが違った。表意文字である漢字の意味を捨て、発音にこだわって「凱」「達」の字を選んだのだ。

     「中国の伝統を守りつつ、広く世界の文化を吸収してほしい」。そんな願いをこめた。

     各地で流行する洋名に中国の新聞は「民族の誇りを傷つける」と警鐘を鳴らす。だが、自民族に固有の名前をあえて使わないという人も、世界にはいる。

     カナダ・オンタリオ州サーニアに住むエジプト出身のシャミル・ホスニ氏(37)と中国出身の王君さん(37)夫妻の2歳の息子の名は「ケビン」という。れっきとした英語名である。

  • 国籍取得を機に

     イスラム文化を身にまとうホスニ氏と儒教社会で育った王君さんが「ケビン」にたどりつくまでには、時間が必要だった。1989年の結婚以来、互いの民族意識を薄め、ひとつの家族を築こうとしてきたが、ホスニ氏は2年後に生まれた娘にエジプト名をつける。露のしずくを意味する「ナダ」である。そして今度は、王君さんが娘を中国語学校に通わせ始めた。

     ふっきれたのは94年にカナダ国籍を取ってから。ホスニ氏はカトリックに改宗して教会に通い出す。王君さんはナダちゃんに中国語学校をやめさせた。「カナダ人として生きる」。2人とも、そう心を整理できたからこその「ケビン」だった。

     カナダでは2001年、国勢調査がある。「出身民族欄には中東系や東アジア系でなく、全員でカナディアンと書くわ」。王君さんはきっぱりと言った。

  • 固有の名捨てず

     民族固有の名前を大切にする人も、もちろん多い。

     ワシントン郊外に住むエジプト人マハムード・メガヘッド氏(46)は、長女のモナさん(13)を筆頭に米国生まれの5人の子供すべてにエジプト名をつけた。フィリピン人の妻ビダさん(38)も同意の上の命名だった。

     名前だけではない。99年夏には、上の娘3人を公立学校からイスラム学校に転校させた。「飲酒や麻薬の誘惑が多い公立校には通わせられない」。学費は1人年3000ドルもするが、娘たちにイスラムの規律が身につくのなら安いものだと思う。

     3人の娘はヘジャブ(スカーフ)で黒髪も覆い始めた。ビダさんが言う。「仕事と発展の機会を与えてくれた米国社会には感謝します。でも、わたしたちは米国文化には染まらない。エジプトとフィリピンの文化を子供に引き継ぎたいんです」

     民族名を選びとった「モナ」と民族名を捨てた「ケビン」、その中間の「カイター」。これからは彼らが隣り合わせで暮らす場面も珍しくなくなる。

     スウェーデン第2の都市イエーテボリ郊外のゴールドステン公立学校。ここにはスウェーデン人に加え、中東など45カ国からの移民の子供が通う。

     「カハリート」。教師のエバ・ソレマンさん(34)が何度呼んでも、そのイラク人の子供は反応しなかった。本来の発音と違うので反発しているのか、あるいは呼ばれていることに気がつかないのか。彼女は発音を気にしながらもう1回呼んだ。

     「同じイラク人では『ゴオルバーン』という子の名前も呼びにくいけど、その子は英語風に『ゴルビー』と言っても答えてくれる。名前の感じ方は人によってみんな違うのよ」。ソレマンさんはそういって子供たちの輪の中に入っていった。

     社会の伝統や文化を鏡のように映してきた人の名前が、同じ民族の間でもどんどん多彩になっている。それは、地球人たちが自らの帰属する「文化」を自分で選び始めたことを物語る。

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