 | | 金メダルを胸に母の遺影を掲げる井上康生〔共同〕 |
【シドニー21日=中前博之】柔道ニッポンに4個目の「金」をもたらした瞬間、体をエビぞりにして、両手を高く突き上げた。21日のシドニー五輪柔道男子100キロ級で、金メダルに輝いた井上康生選手(22)。対戦した強豪をすべて一本勝ちで仕留め、決勝も豪快な内またで決めた。「母に最高のプレゼントができたと思う」。試合後、井上選手は昨年亡くなった母への感謝の思いを明かし、一番高い表彰台の上で、その遺影を頭の上に掲げた。
得意の内またで対戦相手の体がくるりと回り、背中から青畳に落ちた。「イッポン」。主審の右手が上がる。金メダルを祝福する大歓声の中で、何度も両手を突き上げ、喜びを爆発させた井上選手。
表彰台の最上段に上がる時、ジャージーの下にひそませていた母親、かず子さんの遺影を取り出した。笑顔で両手を伸ばし、遺影を掲げた後、君が代を聞く間も大事そうに胸で抱えていた。「母を世界一の選手の母親にしたかった。世界一の母親を観客のみなさんにも見せたかった」。場内を一周した後、こう明かした。
遺影は試合中、父親の明さん(53)の胸の中にあった。決勝戦の前には、目を閉じて遺影の上にあごを押し当て、右手でかず子さんの顔を覆い、「守ってやってくれ」と念じた明さん。優勝が決まると、隣の席で遺影を突き上げる長男の将明さん(27)と抱き合い、「やった。ありがとう……」。言葉が続かない明さんは「かず子が守ってくれた」とかすれた声で繰り返した。
井上選手は5歳の時から柔道を始め、警察官で柔道五段の父、明さんに手ほどきを受けた。小、中、高校で全国制覇。期待通りに成長したが、昨年前半は国内大会で連続して一本負けを喫するなど、初めて壁にぶつかった。母親のかず子さんが51歳の若さで亡くなったのは、そんな時期だった。
昨年10月の世界選手権では、「かず子」の名の刺しゅうが入った帯で優勝。今回も同じ帯で戦った。「前回は母が守ってくれたので、今回は独り立ちした僕を見せてあげたい」。先月、電話で明さんに告げた約束を果たした。
この日も豪快な内またが切れに切れ、五試合すべて一本勝ち。明さんは「あれが私が教えた柔道です。もう教えることはありません」と誇らしげに語った。
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