 | | 男子100キロ級決勝、豪快な一本勝ちでカナダのギルを破り、金メダルを獲得した井上康生〔共同〕 |
2000年代を担う「ミスター柔道」の誕生と言えるだろう。昨秋の世界選手権を制した22歳が、外国勢のマークと重圧をはねのけて栄冠をつかんだ。しかも5試合すべて一本勝ち。一本を狙う日本柔道の王道を示した。
初戦の2回戦、3回戦ともに20秒足らずで一本勝ち。4回戦も豪快な内またを決めた。準決勝で粘るギドに総合勝ちすると、決勝では昨年の世界選手権3位のギルを、滞空時間の長い内またで仕留め、鮮やかに締めくくった。
神奈川・東海大相模高時代から体重無差別の全日本選手権に出場し、「山下二世」と脚光を浴びた。軽量級並みのスピードと最重量級でも通用するパワーを併せ持つ。だが、攻め一辺倒だけに、たびたび返し技を浴びてきた。
何事にも動じない攻守万能の柔道家に脱皮したきっかけは、昨年6月の母、かず子さんの急性くも膜下出血による死去だろう。当時、スランプに悩んでいた井上が、「母と一緒に戦った」世界選手権で初優勝。今年6月の一周忌には、五輪制覇を宮崎の墓前に報告することを約束した。
この日は6月に脳こうそくで倒れた父、明さんが病み上がりの体で観戦した。3日前、子供のころ柔道を教わった父から、「お前は世界一なんだぞ」とカツを入れられた。両親に恩返しを誓い、気迫あふれる戦い。駆け引きに終始せず、一本勝ちの山を築いた。井上は柔道の神髄に着実に迫っている。
「涙も出ないほど見事な試合だった」と称賛した山下泰裕監督は、控室で担当の高野裕光コーチと抱き合って初めて涙を見せた。「私が教えることはもうない。でも今の気持ちを忘れないでほしい。まだまだ高い山がある」
近い将来、100キロ超級で勝負したいという思いを胸に秘める。外国人記者から「世界のヤマシタと同じように、ファンが永遠に忘れない柔道家になるのでは」と言われると、「目標ですが、近づいたとも思っていません」。だが、今後も人の心に残る柔道家として成長を続けるだろう。(岩本一典)
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