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気負いもない。恐れもなかった。畳の上の井上にあるのは、さまざまな感情を排し、ただ蓄えた力を出し切ろうとする姿勢だった。
柔道男子100キロ級決勝のギル戦。警戒して腰を引く相手を冷静に追い詰めた。そして、放った内また。これ以上はないというタイミング、スピードだった。
そんな井上を語るとき、高校、大学を通じての先輩でもある恩師の山下泰裕氏(現日本男子監督)の存在を抜きにできない。史上最強といわれた天才選手から伝授されたものは多いだろうが、井上が口にするのは「武道家の心」だ。
井上の成長を促した出来事がある。昨年4月の全日本選抜体重別選手権でのことだ。
世界選手権の選考会を兼ねたこの大会では、準決勝で一本を取られ敗退。当時スランプで泣きじゃくった井上は、同氏から会場出口のコンクリート上で正座を命じられた。しかられたことは数知れない。だが、こんな仕置きは初めてだった。
井上は当時を振り返り「勝ち負けでそんなに気持ちを乱すな、ということだったと思う。勝ちたいなら、力をつければいい、ということ」と言っている。
柔道を始めた5歳から、英才教育を受けて育った井上には、敗北が耐えられなかった。だが、真の強さを手に入れるためにはそれが、邪魔になる。山下氏はそう言いたかったようだ。「五輪には魔物がいる? 冗談じゃない。そんなものはいない。強いものだけが勝つ、強くなれば勝てる。康生も分かっていると思う」
ともに九州出身で、幼少からの猛烈な練習量を土台に開花した。頂点を極めた時期は井上がやや遅れたが、柔道スタイルには脈々と受け継がれるものがある。(シドニー共同)
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