NIKKEI NET
シドニー五輪2000
最新ニュース
new競技別
new解説者の目
五輪ビジネス
豪SMH紙から
みどころ・コラム
from シドニー支局
競技日程
選手紹介
競技会場
フォトギャラリー
国別メダル数
競技別
(9/21)「康生、上を向いて歩け」・亡き母の思いかなった
 【シドニー21日共同】その瞬間、両手を高く突き上げた。見事な一本に会場は大歓声と拍手に包まれた。柔道男子100キロ級の井上康生選手(22)が21日、金メダルを獲得した。スタンドには遺影を抱えた父親らの姿があった。

 試合後、井上選手は「(亡き母に)最高のプレゼントです」と喜びをかみしめた。

 スランプだった昨年春、母かず子さんから手紙を受け取った。こうあった。

 「初心に帰れ、康生。下を向くな。上を向いて歩かんか」。かず子さんは昨年6月、くも膜下出血のため51歳で急死。これが最後の手紙になった。同10月の世界選手権は、母の名を黒帯に刺しゅうして戦い、優勝。次の目標をこの日に合わせてきた。

 父明さん(53)は、息子が小学5年で日本一になった直後の会話を覚えている。柔道の指導にのめり込み、夫婦関係にきしみも出始めた時期だった。

 毎夜、石段登りをさせた宮崎市の公園で「お父さん、ふてえ(身の丈に合わない)夢見ちゃったか(見たのかな)」と漏らした。

 息子は答えた。「そんなこと言わんで。ぼくは柔道するために生まれてきた子やと思う。だからもっと鍛えて」。これが出発点だった。

 明さんは警察官。狭い官舎で体の大きな三兄弟が小さくなって眠っていると、かず子さんは布団をひっくり返した。「男の子は大の字で寝んか」。1カ月で60キロのコメがなくなる、と楽しそうに話していた。

 山下泰裕男子監督(43)を慕って神奈川県の東海大相模高に進む。自分と同じく高校生で全日本選手権に出場した教え子を「久々に胸がときめく選手です」とテレビで語った。

 だが、3年のインターハイ神奈川県予選決勝でまさかの敗退。かず子さんは、うなだれる息子の手から2位の表彰状を奪って言った。「おまえに2番は似合わん」。役員の目の前で表彰状を破り捨てた。

 明さんは言う。「行為の是非はともかく、康生にかける思いは女房のほうが強かった。育てたのは本当はあいつだった」

 井上選手は「優しいだけじゃなく、強い人なんだなと思いました」と振り返る。

 男3人兄弟の末っ子。小学校時代、家族に内証で1年間、近くに住む難聴の女の子をおぶって通学した。中学では試合前、母親の手を握ろうと客席に戻った。アルバムでもいつも母に寄り添っている。

 かず子さんは亡くなる直前まで日記をつけていた。勤務先の銀行の事務ノートに13冊。「康生」の文字が毎日のようにある。そこだけは赤いペン。こう書いてある。「康生、あんたは絶対に世界一になれる。自分を信じなさい」

 次兄の智和さん(24)はこう語る。「子供のころから勝負に入れ込みすぎて目の前しか見えない窮屈なやつだった。でもおふくろが死んであいつは変わった。顔つき、たたずまい、そして気持ち」

 明さんは「今の康生があるのは智和のおかげだ」と言う。末弟が小学生の時は中学生として、中学生になると自分の通う高校でけいこ相手をした。

 「康生は人の3倍は練習した。とてもかなわない」と智和さん。2人で同じ量の汗を流してきた。母の姿を思いながら、この日を夢見て。

[競技別:柔道]その他の記事 --------------------
(9/23)100キロ超級金メダルのドイエが引退へ・今後は後進を育成
(9/23)判定が覆らないことを確認・篠原の決勝で国際柔道連盟
(9/23)篠原の判定、明らかなミスジャッジ・佐藤総監督が見解
(9/22)篠原、銀も悔し涙で笑顔なし・男子100キロ超級、判定に疑問
(9/22)「判定まさか」篠原無念
(9/22)抗議にもジャッジは覆らず・日本、きょうにも正式抗議
(9/22)篠原、銀にとどまる・男子100キロ超級
(9/22)「そんな……」と判定に絶句・篠原選手の母校
(9/22)男子100キロ超級決勝、判定巡り紛糾
(9/22)山下、終了直前の一本で銅・女子78キロ超級
(9/22)山下、「先に先に」貫く
(9/22)山下選手銅メダルで勤務先の大阪府警、喜びに包まれる
(9/22)篠原、一本勝ちで決勝進出・男子100キロ超級
(9/22)篠原、優勢勝ちで準決勝進出・男子100キロ超級
(9/22)山下、一本勝ちで準決勝進出・女子78キロ超級
(9/22)篠原、ベスト8へ・男子100キロ超級
(9/22)山下が3回戦進出・女子78キロ超級
(9/22)篠原が3回戦進出・男子100キロ超級
(9/21)井上、すべて一本勝ちで金メダル・男子100キロ級
(9/21)井上、パーフェクトで末恐ろしい――柔道・上村春樹氏
(9/21)井上、重圧はねのけ次々一本
(9/21)井上、気迫の金・泣き母への誓い果たす
(9/21)人間的に成長、大人の柔道家に・金メダルの井上
(9/21)柔道・井上金メダルに東海大「バンザイ」の声
(9/21)井上、日本に4個目の金
(9/21)受け継いだ山下流柔道・井上、教え生かして金
(9/21)「康生、上を向いて歩け」・亡き母の思いかなった
(9/21)阿武、初戦敗退・女子78キロ級、男子100キロ級の井上は4回戦へ
(9/21)五輪の重圧に負けた・阿武、また初戦で敗退
(9/21)「集中できなかった」・阿武、悔しい初戦負け
(9/20)吉田痛恨・31歳の挑戦、負傷で幕
(9/20)吉田、完全脱きゅう・関係者「骨に異常なし」
(9/20)吉田、担架で病院へ・投げ技こらえようと畳に右腕
(9/20)吉田、右ひじ傷め敗者復活戦を棄権・男子90キロ級
(9/20)上野、メダルならず・女子70キロ級、敗者復活戦で敗れる
(9/19)滝本、終始攻めて「金」・男子81キロ級
(9/19)滝本、守りの弱さを技でカバー
(9/19)「滝本はたくましくなった」中高時代の恩師
(9/19)天才肌の柔道で頂点・滝本、持ち味発揮で金
(9/19)前田、初戦でまさかの敗退・柔道女子63キロ級
(9/19)まさかの初戦敗退・五輪にのまれた前田
(9/18)女子57キロ級で日下部が銅・中村兼はメダルに届かず
(9/18)日下部、金目指せる選手に・上村春樹氏
(9/17)楢崎、銀メダル獲得・女子52キロ級
(9/17)楢崎、ほんの一瞬で金が銀に・上村春樹氏
(9/17)技出せず、楢崎に厚い金の壁
(9/18)日本に厳しい判定?アベックVで逆風か
(9/18)英アラン選手、髪切っても体重超過・女子柔道代表出場できず
(9/17)男子66キロ級の中村行、敗者復活戦4回戦で敗退
(9/17)キヨシ・ウエマツ(スペイン)、メダル届かず
(9/17)「金メダルと一緒に寝た」・田村、野村が一夜明け会見
(9/16)田村、集中力と経験の金――柔道・上村春樹氏
(9/16)野村、開始14秒で「金」つかむ・男子60キロ級
(9/16)野村V2、軽量級初
(9/16)「初恋メダルです」・田村選手、手に取りキス
(9/16)田村、一本で「金」決めた・女子48キロ級決勝
(9/16)女王田村、3度目ついに
(9/16)「柔ちゃん」金メダルへの道
(9/16)緊張隠せない田村
(9/7)日本の「金」は田村ら7個・米誌がメダル予想
(8/28)アトランタ上回る金を・柔道チームが五輪壮行会
(8/26)長嶋監督が柔道の田村、井上を激励
(8/1)旗手に柔道の井上、主将に野球の杉浦を起用・JOC

競技別トップへ

Copyright 2000 Nihon Keizai Shimbun, Inc., all rights reserved.