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開会式にカンガルーが登場しなかったワケ
開会式でスポットがあたったのはクラゲなど海の生物だった
 9月15日の開会式。お気付きだろうか? オーストラリアといえばだれもが思い浮かべる「カンガルー」と「コアラ」が目立つ形で現れなかったことを。「カンガルーでもコアラでもないオーストラリアとは何か」「オーストラリアのアイデンティティーとはいったいなんなのか」――。こうした問いかけに対する一つの答えが開会式には込められていたように思える。

・コアラ抜きで豪を表現

 「カンガルーでもコアラでもないオーストラリアを表現する」――。開会式の総指揮を執った演出家リック・バーチさんが今から4年前に誓った思いだ。

 4年前のアトランタ五輪の閉会式。おびただしい数のカンガルーが会場に登場した瞬間があった。

 各大会の閉会式では、次の開催都市の紹介の意味を込めて、パフォーマンスが短時間だが行われるのが恒例だ。シドニー五輪組織委員会が演出したパフォーマンスは、カンガルーを背負った人々が自転車に乗ってグランドを走り回るという奇抜なものだった。

 この部分の演出を手掛けたのもバーチさん。

 だが当時、バーチさんに対しては「なぜいまさらカンガルーなのか? もっと違うオーストラリアを表現できなかったのか」との酷評が相次いだ。

 バーチさんはオーストラリア生まれだが、今はロサンゼルスに拠点を置く演出家。ロサンゼルス大会(84年)やバルセロナ大会(92年)の開会式の演出もした五輪開会式のプロでもある。バルセロナ大会でアーチェリーの選手に火のついた矢を放たせて聖火台に火をつけさせた人物だ。

馬が五輪旗を持って登場した

 人を楽しませ、感動させるプロとして、母国オーストラリアからの厳しい批判はバーチさんにとってはそうとうこたえたに違いない。

 そして4年後のシドニー大会の開会式。テレビを通じて開会式を見る数十億人の世界の人々に、バーチさんがカンガルーの代わりの豪州を象徴するものとして提示したのが「そこに住む人間そのもの」だったようだ。

・「多文化主義」を象徴

 バーチさんは開会式前のインタビューで「今日の開会式は豪州がいかに人種や文化が多様な国であるかということ、そして未来に対して楽観的な国であるかを分かってもらいたい」と述べたように、豪州の「多文化主義」を象徴した演技が繰り広げられた。

 こんな場面がパフォーマンスのなかにあった。世界各国から集まった移民と思われるたくさんのグループが、様々な衣装をまといながら踊る。競技場に流れる音楽は一つだが、それぞれのグループのステップは全く違うものだった。それでいてそれぞれの表情は底抜けに明るく、全体の統一感がある。

 18世紀の終わりに英国の植民地として出発した新しい国、豪州。先住民アボリジニへの迫害。メルボルンで五輪が開催された1956年当時、豪州は移民の受け入れ先を欧米に限る白豪主義を堅持していた。それから半世紀近くたった今、シドニー市民の約3割は外国生まれ。それも多くはアジアなど非欧州系の移民だ。

 豪州に集った多様な人間こそが「豪州らしさ」であり「未来を築く源」。これがバーチさんのシドニー五輪に込めたメッセージだったように思える。

・「ノーウォーリーズ」の演出?

先住民アポリジニの文化を紹介する場面が多かった

 そして、このメッセージは海外だけでなく、国内の人々にも発信されたものだった。

 最終点火者に400メートル女子陸上の世界チャンピオンでありアトランタ五輪の銀メダリスト、そしてアボリジニのフリーマンさんが登場した瞬間、豪州の国民はそれぞれの人種や出身を乗り越えて「オーストラリア人」という意識を強く持ったに違いない。

 翌日の地元紙は開会式を「私たちにとって最高の時」と褒めちぎった。バーチさんの“リベンジ”は見事に成功した。

 ところで開会式の総時間は4時間20分と予定を1時間以上もオーバー。さらにフリーマンさんが点火した炎が付いた円盤が途中で立ち往生し、3分程度で聖火台にまでたどり着くはずだったのが、結局10分もかかってしまった。

 これはバーチさん一流の演出だったのではないだろうか。「ノーウォーリーズ=(細かいことを気にするな。何とかなるさ)」というオージー魂を世界に見せつけるために…。

 (シドニー支局=大石信行)

[9月19日]

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