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シドニー五輪はドーピングの競演に?・衝撃広がる告白本
「ドーピング検査をするAIS(豪スポーツ研究所)の職員
 「わたしは(ドーピング=薬物使用=によって)、普通の運動選手になる決断をした」オーストラリアの男子円盤投げの元五輪代表だったウェルナー・ライテラーさん(32)が、豪州で組織的にドーピングが行われていたとする告白本「ポジティブ(陽性)」を出版、豪スポーツ界に衝撃を与えている。

 ライテラーさんは88年のソウル、92年のバルセロナに出場。バルセロナを機に引退したものの復帰を決意。アトランタを目指すが、年齢による体力の衰え、勝てない苦しみ、そして周囲の人々からのプレッシャーのなかで、筋肉増強剤やヒト成長ホルモン(hGH)に手を出していく過程が切々と語られている。

 ・「検査すりぬけ方法を伝授」

 この本のなかでは、25人の豪州選手がドーピングをしていたうえ、こうした選手にはドーピング検査をすり抜ける方法が豪五輪関係者から伝授されていたという暴露部分もある。豪政府の検査当局は、検査を行うことを事前に選手に示唆。示唆された選手は数日間姿をくらまし、検査に引っ掛からないようにするため、体から薬物を抜く作業をしていたという。

 ドーピングで思い出されるのは、ソウル五輪の男子100メートルで幻の世界記録「9秒79」を出したカナダのベン・ジョンソン。筋肉増強剤が検出されて記録は抹消。陸上界から永久追放という厳しい処分によって、ジョンソンの被った損失は5000万ドルにものぼったという。それから12年がたち、薬物汚染はなくなるどころかますます広がっているというのが現実だ。

 「シドニー五輪は化学的に増強されたスーパー人類の集まる史上最悪の“薬漬け大会”となる」(シドニー・モーニング・ヘラルド紙)という声すらある。

 今年3月にも地元テレビ局チャンネルナインのドキュメンタリー番組で、ある陸上短距離選手が「アトランタ五輪に出場した豪陸上チームのうち約8割が筋肉増強や疲労回復の目的でIGF―1(インシュリン様成長因子1)などの薬物を使っていた」と証言している。IGF―1はひとの細胞の成長を促進するホルモンで、小人症の治療などに使われるが、スポーツ選手が筋肉増強や疲労回復の目的で使っているという。

 ・突然死の原因にも

 ドーピングはもともと麻薬や興奮剤からスタート。そしてベン・ジョンソンが使った筋肉増強剤が主流となり、今はhGHやIGF―1、そしてエリスロポエチン(EPO)にその中心が移っている。EPOはもともと腎臓(じんぞう)で生成されるホルモンの一種。腎不全性貧血を治療するための薬剤としてEPOが利用されているが、スポーツ選手が使うと、体内の赤血球が増えるため、酸素の吸収量が増え、選手の持久力を高めるとされる。しかし、乱用すると危険で、欧州で目立つ自転車選手の突然死はEPOが原因という。

 hGH、IGF―1、EPOに共通しているのは、そもそもヒトの体内に存在するホルモンで、発見されてもドーピングによるものかどうかを検査することが難しいということだ。

 ただ国際オリンピック委員会(IOC)もこうした新種のドーピングのまん延を前に手をこまねいているばかりではない。

 昨年11月にはIOCの肝いりで世界反ドーピング機構(WADA)が設立され、シドニーではドーピング検査が大幅に強化される。最も注目されるのは、従来の尿検査に代えて、hGHなどの新薬の分析が可能とされる血液検査が初めて導入されることだ。

 ・知らぬ間に摂取の可能性

 だが、ドーピング検査の強化にも落とし穴があることを忘れてはいけない。

 最近の新薬は簡単に手に入る栄養補助食品にも含まれており知らない間に体に取り込まれてしまう可能性があるからだ。昨年、英国のリンフォード・クリスティやジャマイカのマーリーン・オッティなどの五輪で活躍した選手に筋肉増強剤ナロンドロロンの陽性反応が相次いだ。ふたりとも「禁止薬物を使ったことはない」と全面否定したままだが、栄養補助食品に紛れてナロンドロロンが摂取された可能性が指摘されている。

 今年に入って豪州出身の元大リーガーで、現在中日に所属するディンゴが興奮剤のエフェドリンの検査で陽性となったことも明らかになった。豪州代表選手としてシドニー大会に出場する予定のディンゴは「エフェドリンはダイエット薬に入っていた」と弁明。さらに「そうしたダイエット薬は米国ではだれもが普通に使っている」とし、現在のドーピング検査のあり方について疑問を投げかけている。

 その一方で、新たに導入される血液検査をすり抜ける方法も編み出されるに違いない。「ポジティブ」を出版したウェルナー・ライテラーさんによると、これまではこの尿検査をクリアするために選手はさまざまな工夫をしてきたという。そのいくつかを紹介すると、ある自転車競技の選手は検査時にわきの下に、ドーピングをしていない他人の尿をつめた袋を隠し、下腹部までチューブをはわしていた。さらにある英国の選手は尿をつめた袋を口のなかに隠し、検査にはその尿を使って無事クリアとなったそうだ。

 IOCの「医事規定」では、禁止薬物が検出されると「ドーピング陽性」となり、“初犯”は2年間の資格停止、“再犯”となると終身の資格停止という厳しい処分が待っている。

 ドーピングの技術革新が進むなかで、ドーピングを使っていながら検査に引っ掛からない選手がいる一方で、覚えのないドーピング容疑で厳しい処分を受ける選手が出る――シドニーではそんな悲劇も生まれそうだ。

(シドニー支局=大石信行)

[7月17日]

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