 | | 日本陸上競技連盟強化副委員長・宮川千秋氏 |
宮川千秋・日本陸上競技連盟強化副委員長 女子1万メートル決勝は前半から予想外に速いペースで、日本の3選手は度肝を抜かれた。1000メートルまでに完全に遅れた。現状の日本で女子は長距離のレースの高速化についていけない、という事実がはっきりした。弘山晴美(資生堂)は「これで迷わずマラソンにいける」との趣旨を語っているようだが、これは「1万メートルでは通用しない」と言っていることと同じ。必ずしもプラス思考の考え方ではないと受け止めている。完全に勝負にならないから、その種目を回避するというのは問題の先送り。マラソンに逃げるのではなくスピードアップをいかに進めるか考えるべきだ。
高速化についていけない、という傾向は今後高橋尚子の活躍が著しかった女子マラソンにも近いうちに波及する。危機感を持った方がいい。3人の結果は世界に通用できない日本の現状を立証した。レースを見ていてペースについていけない様子がよく分かった。弘山はマラソン代表を目指して、それが漏れて1万メートルで代表になった経緯がある。もう少しきっちり走り切って欲しかった。敗因はスピード不足。衝撃的な結果になった。川上優子(宮崎沖電気)は頑張った。ただ川上のようなスローペースでは世界についていけない。全く通用しないのだ。高橋千恵美(日本ケミコン)が「世界の強さを実感した」との趣旨を語ったがまさに正直な感想だろう。個人的には入賞は2人くらいはいける、と感じていたので驚くべき結果だった。
男子400メートルリレーで日本はバルセロナ五輪と同じ6位入賞だった。当然の結果であり、課題を残した。今回は準決勝と異なり第一走者が川畑伸吾(法政大)の足の故障によって小島茂之(早大)になった。世界は予選・準決勝・決勝という3本のレースで着実にタイムを上げてくる。しかし日本はそこが弱い。伊東浩司(富士通)、末続慎吾(東海大)などは五輪で9本、6本のレースをこなしているが、それによってタイムを落としたり足の故障が発生したりしている。それでは世界と戦えない。末続は足をひきずっていたので残り30メートルですでに肉離れを起こしていたのだろう。アンカーの朝原宣治(大阪ガス)はそれなりに走っていた。彼の人生で財産になる走りだっただろう。ただ総じてレースは準決勝以上の決勝の内容にして欲しかっただけに残念だ。
薬物使用疑惑のある強い国があって、それで日本が負けるのは仕方ない、と考えるのはどうかと思う。薬物は悪いことであり、フェア・プレーで戦う場合、日本には何が足りないのかという点を素直に見つめることが重要だ。
シドニー五輪後、いまの時点でアテネ五輪までを占うのは厳しい。まず来年、再来年の世界選手権で結果を出さなければならない。朝原、伊東、苅部俊二(富士通)などは五輪が終わったから、ということで道を譲ってはいけない。末続など若手はまだ「よちよち歩き」の状況で何が起こるか分からない。彼らが自立できるまでは厳しいが共に頑張って欲しい。挑戦する姿勢を見せて若手に刺激を与えて欲しい。伊東も引退が取りざたされているが半分は自分のことをそして半分はリーダーとして指導者的な役割を果たしながら走ることを楽しんでもらいたい。
女子走り高跳び決勝の太田陽子(ミキハウス)は1メートル96を飛ぶことを狙っていたようだ。1メートル90に終わったが、自己ベストのタイ記録を出して決勝進出を決めても、まだ不安定さが残る。彼女はまだ若い。30歳前後の外国の選手と戦うには、もっと世界の試合で戦っていくべきだ。日本では自分がトップなので追い込まれない。そのレベルは世界の大会で予選通過程度でしかない。
女子1600メートルリレー決勝で米国が金メダルを獲得したのは作戦勝ち。マリオン・ジョーンズを第4走者と想定した他国は最後に強い選手を持ってきたが、ジョーンズは実際には第3走者。決定的に差を開くことができた。キャシー・フリーマン(オーストラリア)はあれだけ差が開いてしまうと追いつくのが難しい。
男子400メートルリレー決勝も米国が制したが、これは8月に固めたメンバーで挑んだ。今までにないくらいシドニー五輪にかけていたようだ。バトンのミスもなく力のある安定した走りを見せた。男子1600メートルリレー決勝はマイケル・ジョンソンがアンカーを務めた米国が金メダル。ただ米国はシドニー五輪の陸上短距離で世界記録を1つも出していない。この種目が唯一の可能性だったのだが、米国は記録よりも勝ちに行くことを優先した。ジョンソンのタイムも本来の実力ならもう0.5秒速くないといけない。競争相手がいないことや気温の低下がマイナス要因として考えられる。世界記録更新はかなり条件が良くないと実現しない。ジョンソンにとって現在はトレーニングでの改善率が頭打ちの状態なのではないか。
男子5000メートル決勝に出場した高岡寿成(鐘紡)はスピードの変化や展開に全く対応できない。五輪は勝ちに行く選手が多く、揺さぶりをかけたり集団を乱そうとする。もっと速くなるレース展開を想定していた。
シドニー五輪を総括すれば、日本は十分やった、力を出し切ったと言いたい。特に伊東や末続、川畑、小坂田淳(大阪ガス)のように個人で世界と戦えた選手が出たことも指摘したい。課題は国際舞台での経験を積む必要があることだ。これまでは実力が育たず、海外経験も少なかったが世界ランキングの30位に入ってくれば出ていった方がいい。国内の競技で勝つことばかり経験するのではトレーニングにならない。負ける競技を重ねることで成長できるようになる。(シドニー五輪で1日未明、聞き手は遠藤繁)
|