 | | 日本ソフトボール協会理事・鈴木征氏 |
鈴木征・日本ソフトボール協会理事 26日の決勝、米国戦で日本は世界のナンバーワンに食らいつき、力負けすることなくとらえていた。伝統の力に負けたのであり、実力では渡り合った。打線が振るわなかった印象はない。ただ4回表で宇津木麗華が先制本塁打で1点リードしたのは早すぎた気がする。理想的だったのは終盤に先制点を取って逃げ切る、というものだったが、米国に追いつく間ができてしまった。
宇津木は本塁打をセンターから左の方に狙っていた。米国のフェルナンデスが投げた(力を)抜いた球を弾丸ライナーのようないい当たりで本塁打にしたが、フェルナンデスの調子が落ちていたわけではない。配球ミスかもしれないが、この場合は宇津木の力をほめたい。さすがは宇津木、ソフトボール人生の集大成を見せてくれたし、今後五輪出場はないと見られるだけに最初で最後の五輪では総じてよく打っていたと思う。自分で打ってチームを引っ張る姿が印象的だった。「宇津木妙子監督を胴上げする」という目標をこの五輪で果たしたが、満願達成の気持ちだっただろう。26日は宇津木の本塁打以降、なかなか追加点を取れなかった。
増渕まり子は期待通りの活躍でノーヒットに抑えながら、初めて打たれたヒットがタイムリーになってしまった。死球になったスミスは何か当たりに来たような印象がある。作戦の範囲なのだろうが何としてでも出塁する、というしたたかさを感じる。増渕から継投した高山樹里は米国打線を警戒してコーナーいっぱいに投げていた。投手の気持ちとしてはストライクが入っていたと思っただろう。ただこれが四球となり、それが続いて決勝点につながる契機になってしまった。審判の癖、というのも国際大会ならではのこわさと言える。
延長8回裏、サヨナラとなったバーグの打球をレフトの小関しおりはジャンプしてつかんでいた。倒れてしまったがやむを得ないプレーだと思う。打球がよく伸びたが、小関はよく追いついた。このプレーにエラーがついたが日本の感覚とはちょっと異なる感じがするし、小関のことを評価したい。
日本打線のヒットは4本。よく打ったと思う。フェルナンデスは完全試合もこなすエースで、打たれたことがニュースになるくらいだ。フェルナンデスは26日もいい出来だった。日本はそこによく食らいついたし、打力は間違いなく向上している。このことは世界に誇っていい。雨が降り出したので、選手たちが多少気にしたということはあるかもしれない。投手戦だったが点を取られたときは強く降った時だった。ただこの決勝はその名にふさわしいがっぷり四つの内容で劇的なものだった。
宇津木監督のさい配は予選からことごとく的中していた。相手の戦略を的確に読み、適切な投手の起用で勝ってきた。斎藤春香を1番に起用したり内藤恵美、伊藤良恵を使う場面もその思惑がうまく奏功していた。26日の継投策も米国に勝ちに行く姿勢を感じた。高山を先発にして、彼女と共に心中することもあり得たが、かけでも良いので増渕で引っ張る作戦で米国に挑戦した、ということなのだろう。
同点のヒットを打った米国のヌベマンは調子を上げてきてこわい存在だった。投げた増渕も悪くなかったが、増渕のチェンジアップを3塁方向に引っ掛けて打っていたが、このヒットでは体をためて振っていた。決勝打のバーグはバットの芯(しん)に当てた良い打球だった。うまくジャスト・ミートしたので意外に伸びていた。ただ日本の守備は決勝でも問題はない。
シドニー五輪を振り返り、日本の試合で特筆するべきは30年ぶりに勝った予選リーグでの対米国戦だろう。日本は長い期間の合宿で監督と選手が家族のように頼り合える仲間になっていた。女性監督ということもあり、一緒にふろだって入ることができる。「だからコンディションは何でもわかるのよ」という話を聞いたことがある。また若手が成長している。増渕をはじめ内藤、山田美葉、田本博子などは次の五輪を目指す中心選手になる。
長い間国際交流をしないといけない、と言っており積み重ねた努力が実を結んでうれしかった。日本は政治的な理由で78年と82年の世界選手権に不参加だった。それまでは3位(第1回)、優勝(第2回)、2位(第3回)と続けてきたが、2回の欠場を経てその順位は8位(第6回)、5位(第7回)、7位(第8回)と低迷し、世界レベルから大きく遅れた。それを大きく巻き返したシドニー五輪での活躍は男子ソフトボールの躍進が大きい。男子は今年世界2位の実力で、バッティング練習も共にこなすためつられて向上した。
今後日本は投手の力をつけなければならない。8カ国参加した五輪の中で日本の投手のスピードは1番遅い。米国のウィリアムズが115キロのスピードなのに日本は平均で95キロから102キロ程度。もう5キロレベルを上げて欲しい。そうすれば変化球を持つことができるし、これまでの何とかうまくしのいで切り抜けるという作戦から力強さでいく投手になることができる。若手にはその素材が育ってきている。打線は強くなっているのでこのまま伸びて欲しい。それから走塁やバントはミスをなくしていく必要がある。従来日本は細かいプレーを得意としていたがもう一度やり直しをする必要がある。日本選手を相手に、ではなく世界の一流選手に対して細かいプレーができるようになることだ。
宇津木監督は長い間チームをよく引っ張り頭が下がる。中国が「日本には神が付いている」と言ったとき「神は私」と答えたエピソードが伝わっているが、それだけ自信があったのかもしれない。初めてメダルを取れる、ということは日本中の注目を集める契機になった大きな出来事だった。これを通してソフトボールのファンが増えることにつながれば、と願っている。(シドニーで26日夜、聞き手は遠藤繁) |