 | | 日本水泳連盟競泳委員、武蔵野音楽大学講師・野口智博氏 |
野口智博・日本水泳連盟競泳委員・武蔵野音楽大学講師 200メートル背泳ぎ銅メダルの中尾美樹(近大)は後半粘り込んだ、という感じだ。ウオーミングアップではコーチから「肩をすくめないように、あごを上に上げて視線を上にするように」と言われていたが、こうしたことがレースに対する集中力を高めたのかもしれない。本人も準決勝はリラックスし過ぎたと言っているようだし、バランスの良い泳ぎができていた。まず50メートルをついていく作戦だったようで、日本記録を上回るペースだった。後半もつかどうか心配したが、豊富なトレーニング量に裏打ちされた自信から来ているのだろう。
中尾は4年前アトランタ五輪で精神的な部分も含めた経験が足りなかった。その後ナショナルチームからも外れて屈辱の日々も味わっている。こうした経験による強さも見せた。レースではモカヌ(ルーマニア)のようにポッと出てくるタイプと、百戦錬磨の経験を積んだタイプが出てきて活躍する。その意味で萩原智子(山梨学院大)の場合、経験がまだまだだったのかもしれない。前半は飛ばしたがスピードが好調な時期と比べて劣っている。ただレースを見ると自分のベストを上回ろうとする意識がうかがえた。後半、最後の50メートルがもう一つ伸びていない。コーチや選手は調整回数を積まなければならないし、経験から学ぶしかないのだろう。
萩原は4年後にもチャンスがある。今回決勝4位に残ったのだから、今後の経験は世界で戦う選手として大きな意味を持つ。様々な世界の舞台で経験を積んでおくことが大事だ。青木剛監督は「今回メダルを取ったのは世界選手権で活躍した選手だ」と語っているようだが、経験を積んでなおかつ金を狙って初めてメダルに手が届くということなのかもしれない。萩原はどういうパターンの練習が自分に合うのかを研究していくべきだ。そのパターンは作っては壊しの繰り返しだろうがそうでもないと身につかない。メダルを獲得した選手たちは五輪に向けて調整をし、それがうまく合っていた。
男子100メートルバタフライの山本貴司(近大)はよくやった。状態も決して悪くないし、世界の舞台で自己ベストを更新したのは自分の実力を自分で高められたから。成長がうかがえる。ペースが速い中で前半から積極的に詰めていた。山本は入水してからのストロークがうまい。ただマイケル・クリム(オーストラリア)と比べても体形が一回り小さい。水中も含めた筋力を高める練習が必要だ。そして後半にも強さを維持する力を高めて欲しい。今回4位だったが、先頭の3人に追いつく可能性は高い。
女子800メートル自由形の山田沙知子(須磨学園高)は後半でペースが落ちた。途中までは日本記録を上回る泳ぎだったが、足首に問題があり痛みこそないのだろうが、キックの練習が不十分だったのではないか。練習は足首をかばいながらだった。ただこの決勝戦で顔を合わせたメンバーは同年代で4年後にもこの顔合わせで戦うことになる。目の前で喜びあい抱き合う米国の選手を見た悔しさは忘れてはいけない。
源純夏(中大)の女子50メートル自由形準決勝は前半の飛び出しが良かった。25メートル付近では自己ベストと変わらない。問題は最後の15メートル。普段ならもっとテンポを上げてくるのに上がり切れていない。得意な種目だけに、決勝では弾みをつけて日本チームとして出場するメドレーリレーに臨んでほしい。この決勝はメダルこそ難しいが日本記録の更新なら、このメドレーリレーに臨む3人にもいい意味でのプレッシャーをかけられる。本人は「非常に疲れていてからだはきつい」とこぼしているようだが、中村真衣(中大)や田中雅美(中大)の陰に隠れていた存在だった面もあるし負けん気も強い。今回の快挙もメダル獲得並みの価値があると評価したい。世界記録を出したデブルーイン(オランダ)の特徴は号砲からスタート台を離れる反応がものすごく速い。通常は0.7秒程度で源が0.6秒だ。しかしデブルーインは0.4秒しかかかっていない。体調を万全にしたことで0.1秒稼ぎ、スタート時の反応の良さでさらに0.2秒、他の選手を引き離したと言える。
男子50メートル自由形決勝で米国が2人で金メダルを獲得した。後半になって米国は強さを見せている。ファンデンホーヘンバント(オランダ)は調子の良さがここでも表れた。
競泳最終日の23日。みどころは女子50メートル自由形決勝は世界記録が更新なるか。そして源がどこまで頑張れるのか。スタート時の反応を含めて注目して欲しい。また男子1500メートル自由形では王者パーキンの復活に注目が集まる。五輪3連覇を成し遂げられるのか。1000メートルを過ぎたあたりでの米国勢の追い上げもポイントになる。
女子4×100メドレーリレーは予選の印象から言えば、中村真衣(中大)が自己ベストを出すこと、田中雅美(中大)が悪いなりにもリレーなので1分7秒台を出して欲しい。大西順子(ミキハウス)は100メートルを58秒台にすること。そして源が全力を出しきればメダルに手が届く。強敵はまず米国。背泳に不安があるので、中村が引き離しておくことだ。平泳ぎ以降はどの種目も強い。オーストラリアには勝てないことはない。中村の頑張り次第だ。ドイツも不気味な存在として気を付けたい。男子の4×100メドレーリレーは逃げる米国に追うオーストラリア、ハンガリー、ドイツといった格好だろう。オーストラリアは自由形で瞬発力からイアン・ソープではなくマイケル・クリムを恐らく投入する。この競技にぜひ日本も出て欲しかった。背泳と自由形の短距離に強い選手の育成が急がれる思いがしている。(シドニーで22日夜、聞き手は遠藤繁)
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