 | | 日本水泳連盟競泳委員、武蔵野音楽大学講師・野口智博氏 |
野口智博・日本水泳連盟競泳委員・武蔵野音楽大学講師 女子800メートル自由形で史上初めての決勝進出者となった山田沙知子(須磨学園高)。泳ぎから「決勝に残りたいんだ」という思いが伝わってきた。泳ぎ自体は悪くないがその展開に失敗があった。前半400メートルは日本記録よりも2秒06早く入れたが、そのあおりからか500―600メートルのペースに影響が出てタイムが落ちた。前半が早すぎた影響だ。今回予選1位通過のベネット(米国)に対し、山田は昨年12月に勝っている。その後調整を続けているので、現在の山田は日本記録達成時よりも潜在的な力が伸びているはず。それだけにベネットには勝ちたいとの気持ちがハイペースにつながった。自分で目標にしている8分25秒台は可能だ。心配なのは足首。決勝は捨て身で勝負に挑むか、日本記録更新を手堅く目指すか。ベネットのほかクロチコワ(ウクライナ)も調子がいいので山田が離される一方になるレースもあり得る。日本記録を更新すればチーム全体の雰囲気が良くなるので期待したい。
100メートルバタフライの山本貴司(近大)は会場の開場と同時くらいの朝早くからプールに来て体をほぐしたのが吉と出た。状態は悪くないが、午前に体を無理に起こそうとしたことがスタミナ消耗になって、準決勝はいい記録にならないかもしれない。力を出し切れば52秒05―07を記録できるし決勝進出も可能になる。決勝進出を決めれば後は半日休める。76年のモントリオール五輪で56秒34を記録した原秀章以来、24年ぶりの快挙となるので持っている力を出し切って泳いで欲しい。
女子200メートル背泳の中尾美樹(近大)は100メートルまで日本記録を上回るペースだった。余裕を感じるし動きもいい。体重が減ってもスピードが落ちていないので日本記録を上回る成績に期待している。萩原智子(山梨学院大)は自己ベストに近いし戻ってきている。ただラスト15メートルでペースが落ちたことが気になる。流したのであれば腕の一かきで進む距離が長いままのはずだが、萩原は長くない。テンポが変わっていないので疲れているのだろうか。準決勝で様子を見たい。バサロは使っていなかったが、スタミナを保つ狙いや戦略上隠しているのかもしれない。
クロチコワやベネットは強い。22日の女子800メートル自由形決勝はこの2人の優勝争いだろう。クロチコワは800メートルで持久力を、200メートルでスピードを見せつけた。この2つを兼ね備えることが選手には難しい。クロチコワには五輪を含む競技をも調整にあてるような計画性を感じる。競技をトレーニング代わりに使うのはそれだけ力をつけていることの表れだ。翻って日本の場合、学校との兼ね合いで選手が練習に集中する環境が整っていない。米国は授業終了が比較的早く、その分練習時間を長く取ることが出来る。蓄積した練習量の差が競技での安定性につながる。例えば個人メドレーで課題が出れば、その種目の競技に出場し観客の前でトレーニングする。1日に何種目も競技に出てたくさん泳ぎ込むのはバイタリティーが必要だが、経験の蓄積につながる。源純夏や田中雅美はこういう傾向の練習をしていると思う。
21日夜のレースではまず史上初の女子100メートル決勝に進出する源。自分の記録を縮める泳ぎをして欲しい。隣のコースで泳ぐ選手は自己ベストを更新し調子がいい。こういう選手はいい雰囲気を持っているので、源はこれにつられる形で頑張って欲しい。準決勝1位のデブルーイン(オランダ)もいいので緊張感の中で泳ぐことになるだろう。女子200メートル平泳ぎ決勝の田中は目標を見失わず取り組めるか。何をするためにシドニーに来たのかを考え自分の力を出し切ることだ。
テレビで競泳を観戦する人が注目して欲しいのは、ファンデンホーヘンバントやデブルーインの自由形での泳法だ。今までの概念とは異なる泳ぎを見せている。水中の様子が映し出されたら入水後、早めに水をとらえ、腕をより深く下に伸ばして泳ぐ様子が分かるはずだ。(シドニーで21日午後、聞き手は遠藤繁) |